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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
明智大学大学院襲撃編
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白百合の花が揺れる〜Welcome back〜

白百合の花が揺れる〜Welcome back〜



 ヤタガラスにある手紙が届いた。内容はこのようなものだった。

 お久しぶりです。みんな元気にしてますか?

 持病の悪化で戦線離脱し迷惑をかけてすいませんでした。無事に心臓の手術を終えて、リハビリも順調に進み昨日退院許可がおりました。

 だからと言ってすぐに現場に復帰することはできませんが、いずれは現場復帰も可能というお墨付きをもらいました。

 一週間後には退院します。宜しくお願いします。

 大宮サトミ

 サトミさんからの手紙だった。心臓の手術を無事に乗り越えたサトミさんがついに、ヤタガラスに戻ってくる。



 午後十時。カワグチ某所の大学病院。正面玄関。

 正面玄関には大きな荷物を持ったサトミが立っていた。眩しい太陽の光に目を遮りながら空を仰いだ。

「サトミちゃん。ようやく退院だね。よく頑張ったね」

「先生。ありがとうございました」

「サトミちゃんの浄化師としての活躍はしっかりと知ってるからね。サトミちゃんは立派な浄化師だってこともね。でもヤタガラスとの決まりはサトミちゃんが浄化師を辞めるその時まで効果はあるからね。無理せず多くの人たちを助けるんだよ。

 サトミの主治医は笑顔でサトミにエールを送った。サトミは「はい!」と返事をした。正面玄関で話をしていると、一台の車が止まった。助手席の窓がゆっくりと開いた。

「大宮さん!」

「コノハさん!」

 助手席から顔を出したのはコノハだった。運転席からはゴウの催促の声が聞こえて来る。

「大宮。あんまり長く止めらんねえんだ。早く乗れ」

「はい」

 サトミは主治医に頭をさげると車に乗り込んだ。主治医は助手席からコノハとゴウを見て言葉を交わす。

「サトミちゃんのこと頼みます。また何かあればご連絡ください」

「はい。今回はお世話になりました」

 ゴウは頭を下げた。サトミを乗せた車は大学病院から出発した。サトミはこのまま草薙館へ戻ることになっている。車を運転しながらゴウは言う。

「ヤタガラスの連中すごく心配していたぞ。特に年下の嬢ちゃんたちがな」

「スセリさんとミホね」

 サトミは笑った。

 二人に会ったら何を言おう、何を話そう、悪霊浄化で疲れているかもしれない。美味しいホットケーキでも作ってあげよう。

 サトミは頭の中で考えを巡らせる。

 サトミは最低三ヶ月浄化師としての悪霊浄化を一切禁止されている。心臓の手術は無事成功したとはいえ無理は禁物だ。サトミは浄化師になる以前、浄化師になること自体が絶望的だったほど悪かった。しかし努力のおかげで夢を叶えることができた。

 仕事ができない分、草薙館での事務作業などを一手に担うことになった。悪霊浄化ができないのは悔しいが仕事があるだけでありがたいと思えるようになっていた。

「みんな元気にしてますか?」

「あの星見アマツ悪霊事件でだいぶ疲弊してしまって、ヤタガラスは一週間定期パトロールを凍結してもらったって金山さんが言ってたわね」

「凍結ですか? 凍結するってことはかなり過酷な現場だったんですね」

 ヤタガラスに所属しているのは生身の人間だ。怪我をすれば治るのに時間がかかる。手足を失えば再生することはできない。疲労がたまればパフォーマンスが落ちる。当たり前のことだ。

 星見アマツ悪霊事件はヤタガラスに大きな影響を与えたのは事実だ。そこで悪霊対策部は定期パトロールを凍結しヤタガラスは一週間緊急通報のみの対応にするように指示を出した。

 コノハは悪霊対策部も分かってるじゃない、と笑った。

 ゴウの運転する車は順調に草薙館へ向かっていた。



 午前十一時。チュウオウ地区。草薙館。

 ゴウの運転する車が草薙館の前へ止まった。

 サトミはゆっくりと車から降りた。

 サトミは心臓に負担がかかるという理由から入院中は車椅子で生活を余儀なくされていた。一ヶ月以上も自分の足で歩く生活から離れてしまったせいで筋力低下が懸念された。

 サトミは体調が落ち着くやいなや歩くなどのリハビリを始めた。そのリハビリの甲斐あって、こうしてサトミは回復することができたのだった。

 サトミが草薙館の扉を開けた。

「ただいま戻りましたー」

 するとドタドタとせわしない足音が聞こえてきた。その音に反応したサトミは奥を覗き込んだ。足音を鳴らしながらやってきたのは、ミホとそれに遅れてスセリもやってきた。

「ミホ?! スセリさん?!」

「お帰りなさい! サトミ先輩!」

「急いで禊部屋に!」

 サトミは強制連行するような形でスセリに手を引かれ、ミホに背中を押され禊部屋へ入れられた。その様子を玄関で見ていたゴウとコノハは固まっていた。しかし、コノハが笑う。

「草薙館は賑やかでいいわね、兄さん!」

「騒がしいの間違いだろ・・・。だが、嬢ちゃんも元気になってよかった」

 ゴウが静かに笑ったのをコノハは横で静かに見ていた。

 サトミは禊部屋で聖水を使用して身を清めた後、また強制連行されるように二階のパブリックルームへやってくると、サトミは目を見開いた。大きなテーブルの上にはたくさんのご馳走が並んでいた。

 ポテトサラダや唐揚げといった定番おかずから手の込んだ創作料理まで。

「これは一体何?!」

 サトミが驚いているとキッチンからヨシキ、ヒジリが顔をのぞかせた。

「大宮! おかえり!」

「大宮。今日はお前の退院祝いだ!」

「ヨシキに金山さん?! 退院祝いって・・・、こんな豪華な料理一体どうして?!」

 するとミホがサトミを席に座らせた。

「ぜーんぶ熱田先輩たちが作ったんですよ!」

「ヨシキたちが?!」

「今鳴海先輩がぎょーさんの料理作ってます!」

 サトミはキッチンを覗き込んだ。そこにはフライパンを軽やかに動かして調理していた。

「・・・おかえり」

 シュンの小さな声が聞こえた。

「これシュンさんが?」

「とりあえず、座って食え。冷める」

 シュンに言われてサトミは席に座った。それと同時にサトミの荷物を部屋に運び終わった岩永兄弟もやってくる。それを見たヒジリは手を上げて声をかける。

「ゴウ君、コノハさん。大宮の送迎ありがとう。二人も食べていけ!」

 ヒジリに言われて岩永兄弟も席に座った。

 グラスにはジュースが注がれ、シュンの手料理が全て並んだ。乾杯の音頭をとるのは、ヒジリだ。

「まずは今回の事件みんなお疲れ様。大宮の手術も成功して本当によかった。まだ疲労が抜けきらないが大宮の退院を祝して乾杯!」

「乾杯!」

 グラスのぶつかる軽やかな音が響く。喉にジュースを流し込み、そして待ってましたとばかりにシュンの手料理を頬張った。

「美味しい!」

「やっぱり鳴海の手料理は最高だな。ヤタガラストップだ!」

 ヒジリがそう言うとあまり騒がないでくださいと少し笑みを含みながら言った。ヒジリはシュンの方を見て笑いながら言った。

「鳴海はな、浄化師になる以前から一人暮らしをしてたらしいんだ。当時の鳴海はかなり貧乏であまり金がなかったんだ。だからもらったわずかなもので満腹になれるように試行錯誤してたらしいぞ。結果としてヤタガラス一番の料理の腕が身についたそうだよ」

「え?! すごいですね! 私も浄化師になる前は一人暮らしで自炊もしてましたけど、簡単なものしかつくれませんでしたよ?」

 それだけ鳴海のハングリー精神がすごいんだよ、とヒジリが笑う。

「でもこれでヤタガラスが全員揃いましたね」

「ああ。本当に大宮が戻ってきてくれてよかった」

 ゴウの言葉にヒジリも頷いた。

 ヒジリは見渡した。数多くの過酷な戦いを乗り越えてお互いを知り、そして信頼関係も確実に上がっている。そしてヒジリの視線はスセリに注がれた。スセリは笑っていた。

「何よりも阿部が変わったよ」

「嬢ちゃんが?」

「阿部は最初不安げでどこか頼りなかった。自分にうごめく力に怯えているように見えたよ。まだまだ技術はまだまだで自分を犠牲にするような捨て身の作戦ばかり実行しようとするところは困ったところではあるが、彼女はヤタガラスには必要不可欠な存在だよ」

 ヒジリはゴウに言った。

 ゴウはこれでこそヤタガラスですねと笑った。



 午後二十時。パブリックルーム。

 夜も更けて草薙館は静かになった。

 パブリックルームにあるソファにスセリが静かにスヤスヤと寝息を立てていた。サトミの退院パーティーは夕方まで続き、一度全員がお風呂に入った。お風呂で体が温まってしまったせいなのか、スセリはソファで眠ってしまったのだった。

 サトミがスセリに気づいて彼女を起こそうとするが彼女は全く起きない。サトミは困った。すると同じくお風呂上がりのシュンがやってきた。

「どうした? 大宮」

「シュンさん。スセリさんが寝てしまって・・・。このままだと風邪引いちゃうと思って。でも全然起きないんです」

 するとシュンは息を吐いた。

「どうしようもねえ後輩だな」

 するとスセリの体を抱き起こしそれを横抱きして持ち上げた。シュンはサトミにこいつを部屋に運んでおくから先に休んでいろと言った。

 シュンは女子部屋のある三階まで階段を使って昇っていく。振動でもスセリは寝息を立てている。眠りは深いようだった。

 シュンがスセリの部屋に到着し、器用に電気をつける。

 そしてベッドにスセリを寝かせ、掛け布団をかけてやる。そして電気を消してスセリの部屋から出て行った。

 シュンが部屋に戻ると、部屋には白い百合の花。シュンの部屋には似つかわしくないその花が月の光に照らされて静かに揺れていた。

 百合の優しい香りがシュンの心に小さなざわめきを生み出すのであった。



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