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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
繁華街の厄介者編
23/130

医者の兄妹〜Helping hand〜

医者の兄妹〜Helping hand〜



 重い。

 大きな怪我をしたわけではないのに体がすごく重かった。

 急いで草薙館に戻らなきゃ。ヨシキさんの怪我を早く手当てしてもらわなきゃ。怪我は後遺症になるって聞いたことがあるからだ。

 草薙館に戻ろうとした矢先、私とヨシキさんは予定外の変更で別の場所へ向かうことへなったのだった。



 午後三時。ナンペイ地区。とある民家の前。

 スセリとヨシキはニシ地区からナンペイ地区へやってきた。スセリはただでさえ疲弊しているのにも関わらずヨシキを支えながら歩く。

 今二人がいるのはナンペイ地区だ。チュウオウ地区に隣接する地区で、住宅と多くの会社が並ぶ閑静な場所だ。しかしナンペイ地区はトウキョウへ直通できる地下鉄が開通されており、カワグチで暮らしている人たちがトウキョウに向かう唯一の手段であるカワグチステーションに行かなくてもいい。そのため、一部の人はカワグチステーションではなく、このナンペイ地区の地下鉄を利用する人も多い。

 そんなナンペイ地区までやってきたスセリとヨシキ。ナンペイ地区は草薙館のある地区ではない。

 草薙館に戻れない理由。それにはこのような理由がある。

 時間は遡って午後十四時。ニシ地区。繁華街通過中のことだった。

 スセリは草薙館にいる人へインカムを使って情報を伝えた。しかし、今草薙館は人が出払った状態であるため対応できないと言われてしまったのだ。

 スセリは困り果てたが、ヒジリがこのような指示を出した。

「ナンペイ地区へ行くんだ。ナンペイ地区のある場所に行けば大丈夫だ。液晶端末に住所を転送するからそれを頼りに向かって欲しい。すまない」

 ヒジリの声が途絶えて数十秒後には液晶端末が音を鳴らした。液晶にはヒジリが送った住所が地図に登録され、そこまでの行き方が記されている。

 スセリはヨシキと一緒にナンペイ地区まで歩いてきたということだ。

 住所はとある民家を指していた。

 スセリは場所を間違えたのか? と疑うが場所は合っている。白塗りの一軒家で表札には『岩永』とあった。

 ヨシキに聞こうとするもヨシキは疲弊と怪我によりぐったりとしていて、聞ける様子ではない。スセリは一軒家のインターホンを押した。

 するとインターホンから女性の声がした。スセリはなんと言おうかと困惑するが、とりあえず言えること全てを言った。

「日本御霊浄化組合の阿部です。金山ヒジリさんにここに行けと言われてきたんです」

『金山さんに? どういう状況なのかしら?』

「あの! 怪我している人がいるんです! 手当てだけでもしてもらっていいですか?!」

 女性にスセリは必死に訴えた。ヨシキは何も話してくれない。体力の限界が近づいているからだ。するとインターホンが途切れ、数秒後に扉が開いた。スセリとヨシキを迎えたのは茶色い髪の長髪でそれを花柄のゴムで一つに結んでいる女性だった。ピンク色のワンピースに白いジャケットを着ている。

 女性はスセリの状況を見て慌てて駆けてきた。

「熱田さん?!」

「え?」

 女性はヨシキを名字で呼んだ。顔見知りなのか? とスセリは考えるがスセリは何も考えられなくなっている。女性はヨシキの傷を確認すると、家に向かって大声で言った。

「兄さん! 急患よ!」

 女性が「兄さん」と呼ぶ男性が出てきた。白衣によれよれのワイシャツ。はねた髪を後ろで軽く結わいている。

「おいおい。熱田じゃないか・・・」

 男性はヨシキの元へ駆け寄る。男性もヨシキに駆け寄る。腕に巻かれたハンカチを外して傷を凝視する。男性はヨシキを支えた。

「熱田を治療室へ運ぶぞ。お前はそこのお嬢ちゃんを頼む」

「はい」

「ほら熱田。もう少し踏ん張れ」

 男性はヨシキに声をかけながら家の中へ入る。スセリも女性と共に家の中へ入った。



 それから数時間後。

 空はすっかり夕方になっていた。スセリが目をゆっくりと開けた。スセリは疲れのせいか眠ってしまったらしい。ゆっくりと上半身を起こした。被害者の血がついたジャケットは綺麗な状態でハンガーにかけられ、小型拳銃の入ったホルスターもそばに置いてあった。

 スセリはジャケットをきていないシャツの姿で寝ていたのだった。

 顔に触ると頬にガーゼが当てられ、テープで固定されている。

 スセリはボーッとしたが、ようやく理解した。

「あら、気づいたのね」

「・・・?」

 スセリは困惑している。その様子に女性はスセリの隣に座った。スセリを安心させるように話しかけた。

「あなたの名前は?」

「私は、阿部スセリです」

「その制服、ヤタガラスの浄化師ね? 熱田さんと一緒にいたし」

 スセリはヨシキの名前を聞いた瞬間、ヨシキの顔が浮かんだ。女性にスセリは言った。

「ヨシキさんは?! どこですか?!」

「大丈夫よ。熱田さんの傷に薬を塗って包帯で保護したから。今は別室で寝てるわよ」

 女性はそう説明した。スセリはよかったあ、と脱力した。しかし、ヨシキのことを知っているということは顔見知りらしい。

 スセリは聞いた。

「あの・・・ここはどこなんですか? 私、金山さんに指示されるままに来たので」

「そうだったのね。ここはね、一応診療所ってなってるの」

「じゃあ病院? お姉さんはお医者さんなんですか?」

 スセリが言った瞬間、女性は笑ってスセリの手を握った。

「お姉さんだなんて! もうありがとう!」

 スセリはうまく反応できなくて戸惑っている。すると女性の背後から声がした。

「もうすぐアラサーの奴がお姉さんって言われたくらいで舞い上がるな。年考えろ」

「私はアラサーじゃないわよ! まだ二十九よ?!」

 女性はムッとなって男性に言い返す。ヨシキを支えて連れて行った男性だった。目の前で起こる小さな喧嘩にスセリはどうすることもできずおどおどしている。すると男性が近づいてくる。

「ふうん。お前ヤタガラスでは見ない顔だな。新入りか?」

「あ、はい。阿部スセリと言います」

「阿部? なんかどっかで聞いたな・・・? ああ、数ヶ月前に悪霊に襲われて保護した子が浄化師になったって金山さんから聞いたな。それが君か」

 男性がスセリを見る。

 スセリが身を固めていると、

「うちの新人虐めないでくれます?」

 振り返ると壁を支えにして立っているヨシキがいた。ジャケットを脱ぎスセリと同じ白いシャツ姿でいる。左腕には包帯で巻かれている。

「熱田。安静してろって言っただろ。お前、このお嬢ちゃんが支えてくれなかったらとっくに死んでたんだ。このお嬢ちゃんに礼の一つもないのか?」

 男性が言うと、ヨシキはありがとうと礼を言った。すると自己紹介がまだだったな、と男性はスセリに向き直った。

「俺は岩永イワナガゴウ。こいつは俺の妹で」

「岩永コノハと言います」

 スセリはゴウとコノハの二人に頭を下げた。ヨシキは椅子に座り、一体ここがどこなのかを聞いた。

「ここは主に怪我をした浄化師が駆け込んでくるところだ。一応悪霊対策は万全だ。壁に浄化水晶、聖水の出る蛇口もある。ちなみに草薙館にいる奴らも俺たちが担当医をしている」

「つまり、ヤタガラスのかかりつけ医みたいな?」

「まあ、そんなところだ。でも俺は基本的に呼ばれないと行かない。大体は救急だから、こうして訪ねてくる奴らが多いよ」

 ゴウはそう話した。

 だからヒジリはナンペイ地区の民家に迎え、と住所を送ったのだった。スセリはそれで納得が言った。

 スセリはなぜこのような大怪我をしたのか、ゴウとコノハに話した。

「やはりな。最近ニシ地区で大怪我する奴が多いニュースが飛び交ってたのは、悪霊の仕業か」

「はい・・・」

 スセリがそう言うと、ヨシキを見たゴウは言った。

「血気盛んなのはいいが、新人でしかもお嬢ちゃんもいるのに突っ走るのは先輩としてどうなんだよ」

「つい・・・」

 ゴウの説教は長かった。



 治療が終わり、スセリとヨシキは草薙館へ戻ることになった。ジャケットを着て、外へ出るとゴウが車を停車させて待っていた。

「草薙館まで送ってやる。コノハ、留守番任せた」

「行ってらっしゃい。阿部さん、今度は怪我のときじゃない状況で会いましょ」

「はい」

 コノハに見送られて、ゴウの運転する車に乗り込んで出発する。車に揺られるのが心地よかったのか、スセリは眠ってしまった。スセリはヨシキの肩にもたれかかった。ヨシキが見るとスセリは静かに寝息を立てている。

 ヨシキは静かに笑った。

「お嬢ちゃん頑張ったんだな。褒めてやれよ」

「はい、そうします」

「それにしても、熱田。もしかしてまだ引きずってんのか?」

「引きずってないと言えば嘘になります。どうしても血のある現場を見るとフラッシュバックして体が動かなくなります。今回のこの怪我もそれが原因です。阿部を驚かせてしまいました」

 ゴウは運転をしながらそうか、と呟いた。

 チュウオウ地区に近づくと周囲は街灯の光と建物から溢れるネオンに彩られる。その街中をスセリとヨシキを乗せた車は草薙館へ向けて走って行ったのだった。



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