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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
繁華街の厄介者編
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ネオンギラめく街〜Sleepless area〜

繁華街の厄介者編

ネオンギラめく街〜Sleepless area〜



 カワグチには繁華街が存在する。それがチュウオウ地区の隣にあるニシ地区である。ニシ地区は飲み屋街などが栄え、カワグチ有数の繁華街として有名だった。週末ともなれば飲んだくれのサラリーマンが酒を求めてニシ地区へふらっとやってくる。

 私にとっては無縁な場所だが、今回の事件をきっかけに私は嫌でもニシ地区の中でも繁華街と呼ばれる地域に足を踏み入れることになった。

 なんで、私が、繁華街なんかに・・・。



 午前十二時。ニシ地区。

 スセリはニシ地区のパトロールをしていた。

 ニシ地区はカワグチの中でも有数の繁華街として栄えた地区である。多くの飲み屋とレストランが立ち並ぶ。

 しかし時間帯は正午。この時間帯は少し閑散としていた。

「まるで店の明かりが消えたみたい」

 昼間は飲み屋街が静かでまるでゴーストタウンのようだった。スセリはニシ地区を歩いた。ニシ地区はある意味人間の欲望渦巻く場所だ。スセリは正直あまり好きじゃない。

 スセリはその欲望が悪霊を生み出し、悪霊を凶暴化させてしまうことを知っている。やめろと言っても世界は無情にも変わらないとスセリは内心絶望している。

 しかしニシ地区もヤタガラスの管轄である。手を抜くことは許されない。スセリはしっかりと見回った。

 スセリはずっと考えていた。

 このところ昼間に悪霊の姿がはっきりと見えないと。以前は見えたがここ最近見えない。原因はよく分からない。やはり、以前見えたのは自分がどこかおかしかったからだと自分に言い聞かせた。

 スセリには専門知識がない。専門家のところへ行くことにはなるが、だいぶ先のようだった。

 スセリはゴーストタウン化した飲み屋街を歩いた。太陽に照らされた場所を歩き、気配を察知する。悪霊の気配もなければ、小型拳銃の安全装置も外れない。

「いないか」

 スセリは呟いた。

 そして液晶端末を起動して、パトロール完了をタップする。

 スセリはすぐさま草薙館へ戻った。

 その後、スセリたちはパトロールの報告をして大きな異変は見受けられなかった。久しぶりに予兆のない比較的平和な日になりそうだ、とヒジリは言った。

 その夜。その日は大きな通報もなく、静かな夜になった。

 お風呂から上がったスセリは廊下を歩いていた。するとサトミと出会う。

「お風呂上がったの?」

「はい」

 サトミが笑顔をスセリに向ける。スセリはいつも思うが、サトミはスタイルがとてもいいと。スセリはスセリとは違い、制服がパンツである。すらっと長い足がスセリには憧れにも見えた。

「どうしたの?」

 サトミはスセリに言った。するとスセリは少し慌てながら弁明した。

「いや! 最初から思ってたんですけど、サトミさんってすごくスラッとしていてスタイルがいいなって!」

「そうかしら?」

 サトミは自分の体を見る。

「私は別に得したことはないけどね」

 サトミは笑った。

「スセリさん。治安が良くなっているとはいえ、変質者は出るからね。女の子なんだから気をつけてね」

「サトミさんもですよ!」

 スセリはそう言ってサトミと別れた。


 そんなスセリたちの知らないところで事は進んでいた。

 夜になると動き出す、カワグチ最大の繁華街。そこはネオンがぎらつく大人の世界。子供立ち入り禁止の欲望交わる不思議な世界へと化す。

 大人たちは酒を飲んで日々の疲れや癒し、時には欲望丸出しの接待へと進んでく。

 そんな欲望を吸い込んで、今日もあの世に進めなかった悪霊が動き出す。

 どよめくほどの重い空気がゆっくりと動いていたのだった。


 翌日の早朝のことだった。草薙館では浄化師全員がまだ眠りについていた。

 穏やかな朝を迎える、はずだった。

 草薙館に響き渡るサイレンの音。スマートホンのアラームよりもうるさい音にスセリは飛び起きた。

「何?!」

 スセリは起き上がり、ドアを開けた。

「スセリちゃん!」

「ミホ! これって?!」

「緊急通報のサイレンや! でもこんな早朝になんで?! 悪霊はもう活動できないはず!」

 ミホも驚いている。スセリは何事かと動くことができない。

 スセリが経験した緊急通報は全て夜に限定されていた。しかし早朝の通報はなかなかないのだ。

 すると草薙館にヒジリの声が聞こえる。

「草薙館にいる全浄化師に連絡する! たった今、悪霊の緊急通報が入った! 場所はニシ地区の繁華街付近! 現場の状況は不明! 俺は草薙館で待機する。今動ける浄化師はすぐにニシ地区へ向かい、状況報告せよ!」

 ヒジリの指示が草薙館中に流れる。それを聞いたスセリとミホは顔を見合わせた。

「ミホ!」

「金山さんの指示に従わんと!」

 するとサトミの部屋の扉が開き、スセリとミホを見つけると声をかけた。

「二人とも! 急いで準備して行くわよ!」

「ラジャ!」

 サトミの指示に従い二人は急いで寝巻きから制服に着替える。寝癖を整えている時間なども惜しいため、寝癖直しスプレーを吹きかけて手ぐしで適当に整え髪の毛を結んだ。

 全員武器をしっかりと身につけて階段を勢い良く降りていく。

 すると玄関先でヒジリが待っていた。

「朝早くにすまない! 何かわかればすぐに連絡するんだ! 阿部! 立石! 現場では鳴海の指示に従うんだ!」

「ラジャ!」

 スセリとミホが草薙館の外へ出ると、すでにシュンがヤタガラスの緊急車両を玄関前に止めていた。

「阿部! 立石! 早く乗れ!」

 シュンに急かされて、二人は急いで車に乗り込んだ。シュンは全員乗ったことを確認すると、エンジンをかけてアクセルを踏む。

「ニシ地区の繁華街まで飛ばすから掴まってろ!」

 シュンの運転でヒジリ以外の全員を乗せた緊急車両は、チュウオウ地区の隣に位置する ニシ地区まで猛スピードで向かったのだった。



 午前五時半。ニシ地区。繁華街付近。

 緊急車両はニシ地区の繁華街に到着した。車のエンジンを切り、全員が車から降りると全員が現場に言葉を失う。

「これは・・・」

「なんてこった・・・」

 ベテラン浄化師のシュン、ヨシキ、サトミも言葉を失う光景。その光景をスセリもしっかりと目で見た。

 光景。

 薄明るい繁華街の大通りで十名ほどの人が倒れている光景だった。気を失っている者、体のどこからか出血をして痛みで唸っている者、はたまた大怪我のせいでピクリとも動かない者。

 地面には所々鮮血が付いていて、凄惨な現場であった。スセリは目を覆い隠したくなるが、腕が動かなかった。体の自由すら奪うほどに衝撃的な現場であることだ。

「まずは人命救助だ! 熱田は周辺の探索! 大宮と立石はケガ人の状況確認! そして阿部! お前は端末で救急車を要請しろ! 大宮と立石はケガ人の状況をすぐに阿部に伝えろ! 行け!」

「ラジャ!」

 シュンの指示が走る。全員は指示された通り、それぞれに散る。

 ヨシキは繁華街を動き回り、怪しい者がいないか確認する。早朝とだけあり、朝霧が目立つ。先が白く見えない。それでもヨシキは諦めずに探索を続けた。

 一方サトミとミホは倒れている人に声をかける。

「日本御霊浄化組合です! 大丈夫ですか?!」

「日本御霊浄化組合や! おっちゃん、無事か?!」

 サトミとミホは倒れている人に声をかけ、意識確認と怪我の具合を確認する。

「・・・いてえよ。助けてくれ」

「今救急車呼んでます! すぐに来ますので待っててください!」

 サトミはピクリとも動かない人の元へ行く。するとお腹にまるで鋭い爪でひっかかれたような大きな傷がある。その傷から真っ赤な血が滴り落ちている。サトミは声をかける。

「日本御霊浄化組合です! わかりますか?! 何があったんですか?!」

 サトミが話しかけても反応はない。サトミはくっと悔しそうな顔をした。もう命の灯火が尽きてしまったと。

 サトミは手を合わせて次の人の元へ向かう。

 そしてスセリの元へサトミからインカムで通信が入る。

「こちら阿部!」

『救急車は要請した?』

「はい! まだ電話が通じていますので、状況報告をしようかと!」

『丁度いいわ! 今から言うことを伝えてちょうだい! 被害者は十名。初見での軽傷者・四名! 重傷者四名! 意識不明・反応なし・二名!』

「ラジャ!」

 サトミから言われた通りのことを電話で伝える。

「現場の状況を報告します! 被害者は十名。こちらの初見での軽傷者四名。重傷者四名。意識不明・反応なし・二名です。はい、はい、お願いします!」

 スセリは電話を切った。そこから数分間ひっきりなしにスセリの元へ最新の情報が舞い込む。スセリはヒジリにわかっている地点での報告を入れるため電話をかけた。

「こちら阿部です!」

『どうだ現場の状況は?!』

「被害者は十名で、軽傷者重傷者半分ずつと意識不明が二名です。ヨシキさんから周辺は朝霧が多くて細かい探索は難しそうとのことでした。あとサトミさんやミホからは多くの人たちに鋭い爪で裂かれたような傷が目立つそうです。全員にその爪痕がありました」

『そうか。今から指示を伝える。それを現場にいる先輩たちに伝えて欲しい』

 ヒジリからの指示を聞いたスセリは電話を切った。そしてインカムのスイッチを押して言う。

「現場にいる全浄化師に通達です! 救急車到着まであと七分ほどです! 金山さんからの指示を伝えます! 動ける被害者をひとまとめにして待機させ、悪霊からの襲撃に備えろ。全員索敵を必ず行い周囲を警戒し、被害拡大を防げ。元凶は人を死に追い込むほどに凶暴で危険な爪を持っている。相対しても浄化しようとせず、手傷だけ負わせろ!」

 スセリの言葉にイヤホンから全員の「ラジャ!」の声が響いた。

 スセリも急いで手伝いに入る。

 ホルスターから拳銃を抜き、索敵を行う。今スセリがいるのは被害者がうずくまっていた路上。安全装置は外れなかった。この周辺には悪霊の気配はなかった。

 するとスセリの名前を呼ぶ声が聞こえた。

「スセリちゃん!」

「ミホ!」

「うちはここにおる。スセリちゃん、サトミ先輩の手伝いに行ってくれへん?! サトミ先輩、現場の状況調べてるんよ!」

「わかった!」

 ミホにこの場を任せてスセリは繁華街の奥の方へ向かう。するとスセリは凄惨な現場を近くで見た。地面には血がべっとりとついている。スセリは自分が初めて悪霊に襲われた日のこと。浄化師認定テストで大怪我した時に流れた自分の血のこと。

 頭がおかしくなりそうだった。

 スセリは目を凝らして見ると、目の前にサトミの姿があった。

「サトミさん!」

「スセリさん!」

 サトミが振り返った。サトミは武器である脇差を抜いて立っていた。

「大丈夫ですか?!」

「大丈夫よ。悪霊はこの辺にはいないみたい。空も明るいから悪霊も隠れてしまったかもしれないわね」

 サトミがそう言いながら脇差を光にかざした。脇差の刀身が太陽の光で輝き出す。すると刀身が青白く光る。

 その光景は神秘的でスセリは言葉を失った。まるでサトミが女神に見えたほどだ。光にかざした後でサトミは刀身に触れた。

 サトミが行っているのは索敵である。

 脇差の刀身には浄化水晶が砕いて埋め込まれており、青白い光は脇差に埋め込まれた浄化水晶が輝いているからだった。脇差を光にかざしその浄化水晶が光る度合いと刀身に触れた際の熱で索敵を行う。

「この辺には悪霊はいないわね」

 サトミがそう言うとインカムが鳴る。

『こちら立石。救急車到着しました! 意識不明者と重傷者はすでに救急車に搬入し、出発しています! 今は軽傷者の搬入です!』

「こちら大宮。わかったわ! 私はもう少し探索する。救急車が出発したらまた連絡ちょうだい!」

『ラジャ!』

 サトミはこうしてインカムを切った。



 午前八時。草薙館。パブリックルーム。

 緊急の早朝業務に出動した五人は疲弊していた。肉体的な疲弊よりも精神的な疲労の方が大きい。草薙館に待機していたヒジリは朝食を用意して待ってくれていた。

「みんな。本当にお疲れ様。これでも食べてくれ」

 ヒジリの作ったのは焼魚にご飯、豆腐とワカメの味噌汁という日本の定型的な朝ごはんと言えるメニューだった。

 ヒジリのご飯を食べる。

 結局朝食後はあまりの疲れに全員部屋へ戻り休んだのだった。

 本日の業務は凍結され、緊急通報のみの対応をするとヒジリは決めた。

 ヤタガラスはこの早朝業務を境に、再び大きな事件へと巻き込まれていくのであった。



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