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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
悪魔の雄叫び編
20/130

思いは星空へ〜You who shed gentle tears〜

思いは星空へ〜You who shed gentle tears〜



 双子の悪霊を浄化してから数日後。

 私はヨシキさんやミホに手伝ってもらいながら、悪霊対策部への報告資料を作っていた。

 あの双子の女の子たちは昔不慮の事故に遭い、そのまま帰らぬ人となったという。まだまだ遊びたいという純粋な気持ちにこの世を生きる人々の負の感情が混じり、双子の片方が悪霊となり、もう片方は悪霊になりかけたもののギリギリで理性を保っていたらしい。

 そのまま離れ離れになり、理性を保ったままの方は悪霊と化した片割れを探してカワグチへ迷い込んだのだった。

 私はそのことを思い出すと、言葉が出てこなくなる。私は大丈夫なのだろうか?



「三嶋さんからの情報で昔幼い双子の姉妹が不慮の事故で亡くなったことを聞きました。その双子が未練を残してこの世を彷徨っていたと思われます。実質未然に被害を抑えられてよかったのではないでしょうか?」

 スセリがそう話す。場所は作戦準備室。

 双子の悪霊に関しての報告を行っていた。しかしスセリの表情は晴れなかった。結局自分は己の弱い優しさによって二人を送り出すことができなかった。結局スセリはヨシキの力を借りたにすぎない。

 頑張らなきゃいけないのに、余計な感情が入り込んだ。

 スセリはそう思い続けていた。

「阿部。ありがとう。阿部が書いた報告書はすでに郵送している。これにて、この双子悪霊事件は解決だ。みんなよく頑張ったな」

 ヒジリが言った。

 お疲れ様でした、と全員が頭をさげる。

 スセリは制服を脱いで普段着に着替えた後、パブリックルームの椅子に座り、窓の外を眺めていた。流れる雲をぼーっと見ているとヨシキが話しかける。

「まだ引きずっているのか?」

「・・・」

「言っただろ? その優しさは阿部の最大の武器だ。完璧な浄化師なんかいない。浄化師だって感情と自我を持った人間なんだ。僕はあの時、悪霊を拳銃で撃たなかった阿部を尊敬するよ。僕だってわかるよ、阿部の気持ち」

 スセリは顔を上げた。ヨシキの横顔は太陽に照らされて輝いて見えた。

「もし僕が阿部の立場だったら同じように引き金なんか引けない」

「本当ですか?」

「ああ」

 スセリの肩にヨシキの手が触れた。

 絶望の中にいたスセリを引き戻したその手は温かい。

「ゆっくりでいい。完璧を目指すな。一つずつ成長して、一人前になればいい」

 ヨシキの言葉にスセリは救われた気がした。

 優しさは阿部の最大の武器。そしてその優しさを失えば、浄化師はできない。その感情は浄化師としての阿部を成長させる大事なものになる。

 ヨシキはスセリに言ったのだった。

 スセリは草薙館の扉を開けた。

 今日も変わらないいつもの日常が幕を開ける。しかしスセリは浄化された悪霊に思いを馳せる。すると草薙館の塀に雀が止まる。優しいさえずりが聞こえてくる。

「・・・」

 スセリは静かに微笑んだ。

 スセリにとって今までは平凡な日常だった。今では、すべてが新鮮で新しい非日常だ。それがいいとはなかなか言えないが、スセリにとってはこれでよかった。

 大事な居場所はここなのだ、と再確認できる。



 その夜。スセリはお風呂から上がり部屋で落ち着いていた。するとドアをノックする音が聞こえる。ドアが開くとそこにはミホがいた。

「スセリちゃん。今ええか?」

「?」

 ミホに連れられて、スセリはミホの部屋へ行く。

 ミホの部屋はスセリとは違い、動物のぬいぐるみや可愛い雑貨が並んでいる。スセリはまるで友達のハルカの部屋に来たような感覚に陥る。

「なんで笑うん?」

「いや、私の友達の部屋に似てたから思わず」

「じゃあ、その子もうちと感覚が似てるんやな」

 ミホはそう言ってベッドに腰掛けた。そしてマグカップをスセリに手渡した。マグカップからは湯気が上がり、温かいココアが入っている。

「今日は曇りのない綺麗な星空なんよ。カワグチって都会やから、田舎のような綺麗な星空は見えんけど、それでも綺麗やで」

「本当だ!」

 スセリは目を輝かせた。

 カワグチは都会で美しい星空は都会の光でかき消されてしまう。しかしそれでも輝く星をスセリは眺めた。

 あの子たちもしっかりと元の流れに戻れただろうか。そう思わずにはいられなかった。

 しかし今はミホの入れたホットココアを飲みながら、星空の余韻に浸るのだった。



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