日本御霊浄化組合〜Purifier〜
日本御魂浄化組合〜Purifier〜
夢を見た・・・。黒い靄に取り込まれそうになる恐ろしい夢だった---。
かすかに香る火薬の残り香が---、記憶に刻みつけられた。
小鳥の声が聞こえてきた。窓からさす朝日が眩しくて体が身じろぐ。
スセリはゆっくりと目を覚ました。スセリの目に飛び込んできたのは見知らぬ天井だった。
額には濡れタオルが置かれている。スセリは部屋を見渡す。びっちりと本がしまわれた本棚が並び、机が置かれ、様々な書類がバインダーに挟まれてデスクの上に置かれている。
スセリが寝かされていたのは、ソファであることもわかった。
「ここ、どこ?」
スセリがそう呟くと、扉が開いた。
「?!」
驚いたスセリは身を硬くしている。そこにやってきたのは、一人の女性だった。長い髪をポニーテールに結んでいる。着物を模したトップスに紺色のブレザー、そしてすらっと長い足を強調するパンツを履いている。
入ってきた女性はスセリを見ると、スセリに近づいた。
「気がついた?」
「・・・」
突如なのでスセリは言葉を発することができずにいる。スセリの気持ちを察した女性は怖がらなくても大丈夫よ、とスセリに言った。しかしスセリの目には信じられないものが映った。
女性の腰にはベルトで固定されているものの、刀をぶら下げている。警棒とは明らかに長さが違う、そして刀特有の柄の部分がはっきりと見えた。スセリは思わず声に出してしまった。
「刀?!」
それを聞いた女性は大丈夫よ、とスセリをなだめた。女性はこの刀は仕事道具であり、人間に対して抜くことはないと言った。女性にはわかった。スセリに対して安心させるために自ら名前を明かした。
「私は大宮サトミ。あなたは?」
「私は・・・、阿部スセリです・・・」
女性はサトミと名乗った。サトミに乗せられてスセリも名前を名乗った。スセリはすぐにサトミに聞いた。
「ここはどこですか?! 私、会社に行かなきゃ!」
「阿部さん。あなたは丸二日も寝ていたのよ。会社どうこうじゃないと思うけど」
スセリは愕然とした。スセリは丸二日も眠り続けていたということに。まだ新人社員であるスセリにとってみれば致命的とも取れる。スセリがどうしようとうなだれていると、サトミが会社に対して掛け合ってみると言ってくれた。
「ここは日本御魂浄化組合のカワグチ本部」
「にほん、みたま・・・?」
スセリは聞いたことのない名前に終始パニックを起こした。しかし、会社という雰囲気ではなかった。スセリはカバンを持ってサトミと共に部屋を出た。フローリングの廊下を歩いていると窓の外をふと見た。外は木々が生い茂っていた。都会化しているカワグチにもまだこのような自然のものがあったのだと思うと安心した。
サトミについていくとある部屋の扉の前で止まった。サトミは扉をノックして扉を開けた。そこには複数の人間が座っていた。
「大宮。どこに行ったんだ?」
氷のように冷たい言葉が聞こえてきた。すると今度は少女の声と間違えるほどのかわいい声が聞こえてきた。
「サトミ先輩は昨日保護した子の様子を見に行っとるだけです。昨日の夜にカワグチステーション付近で悪霊が出たからって、サトミ先輩と熱田先輩で浄化しに行ったやないですか」
かわいい少女の声でありながらこてこての関西弁が繰り出される。そのギャップにスセリもサトミの後ろで拍子抜けしそうになった。
「マシンガントークはここまで。昨日保護した子が目を覚ましたから連れてきたの」
サトミの後ろからスセリがひょっこりと顔を出すと、部屋の中にはデスクが置かれている。そこには男性が一人と女性が一人いた。男性は黒い髪に紺色のパーカーを椅子にかけてワイシャツにネクタイの姿でいる。女性の方はまっすぐの髪に白いワイシャツに赤い胸リボン、ピンク色のパーカー、そして紺色の襞の入ったスカートを履いている。見た目と服装がアンバランスな印象だ。
するとスセリのそばに男性が寄ってくる。スセリは怖くて目を合わせないでいると、
「この子は阿部スセリさん。二十二歳。カワグチステーションで悪霊に遭遇し、怪我のため一時保護したの」
「悪霊?」
スセリは怪訝な表情をしてサトミを見上げた。ただならない空気と不安に持っていたカバンを抱きしめた。
すると関西弁で話していた女性が目を輝かせてスセリの近くまで寄ってきた。スセリが警戒心高めで身構えていると、女性は笑顔を向けてスセリに話しかけたのだった。
まっすぐの眼差しにスセリは圧倒されてしまった。それを見かねたサトミは落ち着きなさい、と声をかけた。するとごめんなさい、と謝った。
「じゃあ改めて自己紹介するね。うち、立石ミホやで! 新人浄化師でーす!」
ミホはそう言ってウインクをする。スセリは馴れ馴れしいな、と心の中で思ったがそれを口に出す暇などなかった。
「は、はあ・・・」
スセリが返答に困っているとそれを察したのか、クールな男性がミホに言った。
「立石。矢継ぎ早に言うな。困っているだろ」
「鳴海先輩こそ、部屋の中で物騒なもの磨いていないでくれへんのですか?」
男性に怯まずにミホは言った。スセリが男性の方に目を向けると男性の手に持たれていたものに背筋が凍った。
「?!」
スセリの目に飛び込んだもの。それは、ライフルだった。
目の前にあるのはスパイ映画やファンタジー小説などのフィクションの世界で描かれているライフルそのもの。自分が生きているこの世界でしかも、この日本でライフルを磨いている人間がいる。スセリは驚きを隠せなかった。
「スセリちゃん、ビビってます」
「・・・」
男性はライフルを机の上に置いた。
「びっくりさせてごめんな、スセリちゃんあの人は鳴海シュンさん。ベテランの浄化師さんでな、百発百中のスナイパーなんやよ!」
シュンはスセリの顔をちらっと見た。スセリは息を飲んだ。まるで冷気をただ酔わせているかのように表情はなく、まるで表情が読めない。何を考えているのか全くつかめないでいる。しかし、スナイパーの雰囲気を漂わせているのはスセリでも分かった。
するとシュンはスセリに言った。
「阿部スセリと言ったな」
「あ、はい」
「お前は不運にも悪霊に魅入られた被害者だ。早く帰れ」
「え、でも、大宮さんが勤務先に掛け合ってもらってもらってるんです」
スセリはかろうじてシュンの言葉に答えた。新入社員で連絡もせず二日も欠勤するのは、すでにスタートダッシュを失敗したようなものだ。
それ以上に不安なことはスセリが現在身を寄せている『日本御霊浄化組合』とは一体どのような場所なのか。スセリが襲われた原因はなんなのか。その謎がまだ解けていない。
すると扉が開いてサトミが入ってくる。
サトミはスセリの会社に連絡を入れてくれていた。サトミはスセリを見つけて言った。
「会社さんに連絡が取れたわ。半信半疑ってところね。私たちの仕事って世間的には認められているけど、認知度が低いから相応の反応だと思うわ」
サトミがため息をつくとライフルを手入れしていたシュンもそうだな、とつぶやいた。シュンに気づいたサトミはシュンに話しかけた。
「鳴海さん。ライフルの手入れは他所でしてください」
サトミに言われてシュンはライフルを置いた。するとスセリを見て言った。
「こいつは悪霊に魅入られた被害者だ。すぐに家に帰すべきだ。どうして帰さない?」
「金山さんの指示なんです」
「所長のか?」
サトミの言葉にシュンは驚いた。スセリも少しずつではあるが分かってきた。どうやら自分が未だにここに拘束されているのは、所長の指示であることだ。しかし拘束される理由がわからない。
スセリの中に特別な何かがあるわけではない。少なくともスセリはそう思っている。
スセリはわけもわからずその場に立ちすくむしかできなかった。すると足音が聞こえてきた。振り返るとそこには一人の男性が立っている。
見た目は四十代くらいだろうか。そしてサトミやミホ、シュンと似た制服を身につけているが、胸元には憲章が下がっている。スセリが見渡せば、全員が立ち上がり男性の方を向いている。
どうやらこの人は一番偉い人らしい。スセリは直感で思った。
「君が阿部さんだね?」
「あ、はい・・・。阿部スセリと言います」
男性はスセリに話しかけると自己紹介をした。
「俺は金山ヒジリ。この日本御霊浄化組合の所長だ。よろしく」
「ど、どうも・・・。その、日本御霊浄化組合って何なんですか? 私、よく・・・」
スセリがそう言うとヒジリは笑ってスセリに手招きをする。軍人かと見紛うほどの制服がよく似合うヒジリ。ヒジリの手招きの元へスセリは歩き出した。
そこでスセリは知ることになるのだった。
日が傾いて闇夜に包まれると現れるなんとも不可思議な存在。そしてその存在と唯一相対せる存在を。
この物語は架空であり、人物・職業・街名・名称などは架空のものです。この物語はフィクションですのでご了承ください。