惹かれ合うもの〜Twin gods〜
惹かれ合うもの〜Twin gods〜
助けて。こっちに来ないで!
そう言っているように私には感じた。あの悪霊は苦しんでいる。助けてともがいている。そして何より、何かを探してる。
助けてあげたい。
なんとかしてあげたい。
私は日々そう思うようになっていた。
草薙館の扉が開いた。
入ってきたのは情報屋のフウマだった。ヒジリはすぐさま彼を作戦準備室に通した。調べた結果をフウマは早速話し始める。
「カワグチの悪霊を調べていたら妙なことが分かった。それは同じ魂が二つ悪霊になったってことだ」
「同じ魂が悪霊に? どういうことですか?」
「普通魂が分裂するなんてありえない。それは当たり前だ。しかし、この世界っていうのは不思議なものでな同じ魂を持つ奴らがいるんだよ」
フウマは笑う。
「同じ魂を持つ奴ら? どういうこと?」
サトミが首をかしげると、フウマはサトミちゃんは頭が硬いのかな? と笑いながらからかう。するとヨシキがひらめく。
「なるほど。そういうことか!」
「熱田さんはわかったみたいだぜ」
フウマがニヤリと笑う。ヨシキは口を動かした。
「普通、魂は人の中に一つだけ存在する。しかし、この世界は本当に不思議で一つの卵から二つの魂が生まれることもある。一つの魂を二つに分かつもの、つまりは・・・双子だ」
ヨシキの答えを聞いたフウマはニヤリと笑い、ビンゴ! と言った。それを聞いたスセリは今まで引っかかっていたことが一本の糸になった気がした。
「じゃああの悪霊は双子の片割れを探していたってこと?」
スセリがそう言うとシュンは頷いた。スセリの考えが確信に変わった瞬間だった。するとヒジリはスセリを見て再び問いただす。
「阿部。この中であの悪霊の姿を捉えたのは君だけだ。君はどうしたい?」
ヒジリから問いかけられスセリは考えながら、少しずつ言葉を紡ぎ出す。
「私はあの子達をもう一度会わせてあげたいんです。会わせないまま浄化したらそれこそ恨みが強くなって人を傷つけかねない。だったらあの子達の願いを叶えてあげたいんです」
スセリの考えを聞いたヒジリはスセリの頭に手を乗せた。何事かとスセリは身構えるが、ヒジリは笑って答えた。
「阿部は優しいな。その心、浄化師にとって必要不可欠なものだ。その気持ちを忘れるなよ。君の想いを汲み取った作戦を組むぞ」
「ラジャ!」
ヒジリが決断を下した。
ヒジリはすぐさまにカワグチの地図を開き、作戦を立てる。そしてここ数ヶ月の悪霊の出現地を記録から精査して数を割り出す。
「阿部と立石が手傷を負わせた悪霊がニシ地区、チュウオウ地区、ハトガヤ地区で出現しています。昨日シュンさんと阿部が遭遇した悪霊はどうだった?」
「傷はありませんでした」
「ということは双子の片割れだ。双子の悪霊を双方でおびき出し、チュウオウ地区までおびき寄せるというのはどうですか?」
ヨシキが言った。
ヨシキが提案したのは悪霊を一箇所に集めるよおびき出し作戦だ。しかしこの作戦にはリスクもある。それは場所だ。もしヨシキの言う通りにチュウオウ地区に集めるとしたら距離が重要になる。
もし悪霊がアンギョウ地区やカミネ地区といったチュウオウ地区に出現した場合は移動のリスクと被害リスクが高まってしまう。
「今の所、手傷のない片割れはアオキ地区にしか出現していない。アオキ地区からチュウオウ地区までは比較的近い。移動していないことを願うしかないな」
ヒジリは呟いた。
その日はフウマも交えた作戦会議が行われ、会議は深夜まで及んだ。その夜は幸い通報もなかったため密に作戦を練ることができた。
作戦決行日。午前十時。始業。草薙館作戦準備室。
全員が制服に身を包み、作戦準備室に集まる。そして全員で作戦内容を確認する。全員が一丸となって悪霊索敵を実施することになる。
今日のパトロール割り振りを液晶端末に送る。
パトロール区域
チュウオウ地区「チュウオウ・ニシ・ナンペイ」
[Satomi OMIYA]
アオキ・シバ地区「アオキ・シバ」
[Suseri ABE]
ハトガヤ地区「ハトガヤ」
[Yoshiki ATSUTA]
トヅカ・カミネ地区「トヅカ・カミネ」
[Miho TATEISHI]
アンギョウ・シンゴウ地区「アンギョウ・シンゴウ」
[Syun NARUMI]
ヒジリ以外の浄化師たちがカワグチの各地域に振り分けられた。
ヒジリは全員を集めて言う。
「いいか? 昼間は悪霊の姿を確認できない。まずは、悪霊の気配を察知し夜に備える。そして阿部。もし遭遇したら必ず俺に連絡を入れるんだ。いいね、全員怪我だけはしないように!」
「ラジャ!」
ヒジリの指示に従い、全員が返事をする。そしてそれぞれがそれぞれの地域へ移動する。
午後一時。アオキ地区。カワグチ庁舎付近。
スセリが向かったのはアオキ地区。カワグチ庁舎前を通り過ぎて裏路地へ入る。すると気配を察知する。すぐさまに小型拳銃を抜く。
すると一瞬で安全装置が外れたのだった。
「いる確実に!」
スセリは身を構えた。すると、目の前に黒い靄が見える。しかし以前のように姿を捉えることはできない。ただの靄だ。
なんで姿が見えないの? とスセリは焦りを覚える。するとスセリは悪霊がこちらへ来るのがわかった。小型拳銃を見せていれば警戒されてしまう。スセリはゆっくりとホルスターにしまった。
悪霊にスセリの言葉が通じないかもしれない。科学も常識も逸脱しているのが、この世界だ。スセリは己の言霊の力を信じて黒い靄に話しかける。
「怖くないよ。もう一人の子に会いたいんでしょ?」
「・・・!」
黒い靄はスセリの言葉を聞いて反応を示している。スセリはさらに付け加える。
「今、もう一人の子を探しているの。夜、また私がここに来る。一緒に会いに行こう」
なるべく優しい言葉でスセリは話しかける。これが通じるなど思っていない。スセリは賭けに出ている。
「・・・!」
黒い靄はスセリのそばに寄ってくる。スセリは目を瞑る。ゆっくりと目を開けると制服に寄り添っている。まるで小さな子犬のように。
スセリは最初サトミに言われたことを思い出す。
悪霊の穢れは怪我などにつながる。目印にされて狙われる可能性だってある。必ず聖水で清めなければならない。
わかっていた。しかしふりほどくことができなかった。浄化師が身につけている制服は多少の穢れに耐性がある。スセリは悪霊に言った。
「今夜私がまたここに来る。その時は、これを目印に来てね」
スセリは首にかけられた赤い浄化水晶に触れる。これに触れれば黒い靄は消えてしまう。スセリは少し赤い浄化水晶を離して言う。すると悪霊はそれを理解したのか、そのままスセリから離れて消えてしまった。
スセリはインカムを取り出し、ヒジリに連絡を入れた。
「こちらアオキ地区の阿部です」
『こちら金山。どうした?』
「例の悪霊、発見しました」
『そうか! どっちだった?』
「それが、分からなかったんです。姿が見えませんでした」
『そ、そうか。不思議なもんだな。そんなことより、どうだったんだ?』
「あの子、すごく大人しかったんです。こちらの言葉に耳を傾けてくれました。私が迎えに行くと伝えています」
ヒジリはそうか・・・、と驚いていた。
悪霊が浄化師の言葉に耳を傾けるなど想像もできなかった。ヒジリにもまだ驚く要素はたくさんあったんだと思い知らされる。
『わかった。ちょうど、大宮からも連絡が来た。チュウオウ地区で例の悪霊の気配を捉えたそうだ。向こうは手傷を負っている可能性が高い。一度草薙館へ戻ってこい』
「ラジャ」
スセリはインカムを切った。
そして黒い靄の消えた方向を見据えて、小さな声で言った。
「あなたの願い、必ず叶える」
スセリはそのままアオキ地区を後にしたのだった。
午後五時。草薙館。作戦準備室。
パトロールを終え、浄化師たちが戻ってきた。そして報告会が行われる。
「アオキ地区に例の悪霊がいました。しかし、姿を見ることはできませんでした。しかし、こちらの問いかけに耳を傾けてくれたのでチュウオウ地区まで誘導できそうです」
「悪霊が耳を傾けるなんてな。不思議なもんだ」
ヨシキが言う。
そしてチュウオウ地区をパトロールしていたサトミの報告に移る。
「チュウオウ地区に不思議な悪霊の気配を感じました。かなり攻撃的な様子ですが、気配の動き方が鈍いと思われます。恐らく手傷を負った方だと思います」
「大宮。ありがとう」
ヒジリが言う。
そしてヒジリは情報をもとに作戦を説明する。
「今夜決行する作戦を改めて確認する。アオキ地区にいる悪霊をおびき寄せ、チュウオウ地区へと誘導する。アオキ地区へは阿部に行ってもらう。阿部でなければ、あの悪霊は動かないからな。場所はチュウオウ地区。カワグチステーション裏路地だ。いいかい? 今回は再会を目的とする。俺が指示を出すまで浄化作業は一切禁止だ」
「ラジャ!」
全員が返事をした。
するとミホがスセリに言った。
「スセリちゃん。大丈夫なん? 悪霊を誘導するなんて」
「大丈夫。私たちが攻撃する様子を見せなければ攻撃してくることはないと思うの」
「そうなん? でも気ぃつけてな」
「うん」
ミホの心配をスセリはしっかりと受け取った。
スセリは草薙館の窓辺に身を預けた。首に下がる赤い浄化水晶のネックレスに触れる。ヒジリからもらった大切なお守りだ。このお守りは必ずスセリを災難から守ってくれる、とスセリ自身は信じている。
夕焼けの光がスセリの赤い浄化水晶を真っ赤に照らし出すのだった。
作戦決行まで残り三時間。
その時間までスセリは草薙館で束の間の休息を取ったのだった。




