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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
最強の悪霊マーラーとの死闘・後編
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居場所〜I'm the happiest now〜

居場所〜I'm the happiest now〜



 私の怪我の経過は順調で最初は歩けなかったが、無事に歩けるようになるまで回復し、病院から退院した。入院中はミホやサトミさんたちがお見舞いに来てくれた。

 これで私たちの長い長い悪霊マーラーとの戦いは終わったんだ、と改めて実感する。

 困難を幾多も乗り越えて、今の私がいる。

 私は今まで口にしなかった想いをついに口にすることになった。

 それは---。



 午前十一時。チュウオウ地区。草薙館。作戦準備室。

 作戦準備室には制服に身を包んだサトミ、ミホ、シュン、ヒジリ、ヨシキ、研究者のアズミとタイコウがいた。

「では本日より業務を再開する。これからもよろしく頼むぞ」

「ラジャ!」

 全員が返事するとタイコウが「ん?」と声をかける。

「あの…スセリさんは? 一人足りませんよ?」

「あ…」

 アズミが間抜けな声を出す。すると、作戦準備室の外から階段を駆け下りる音が聞こえてきた。軽快な音がだんだんと近づいてくる。そして作戦準備室の扉が開いた。現れたそれに全員が笑って出迎える。

「遅くなりました! 阿部スセリ、今日より復帰許可降りたんで今日より業務に参加します!」

 スセリだった。まだ両手の腫れは元に戻っていない為、包帯で巻かれているがそれ以外の傷はすでに癒えた。スセリの姿を見たヨシキは笑って言った。

「阿部。おかえり!」

 ヨシキに促されてスセリはいつもの席に座った。ヒジリは全員が揃ったことを確認したところで、黒板にカワグチの地図を広げた。

「では全員が揃ったところで今日のパトロール当番を決めるぞ…」

 いつものヤタガラスの光景に戻っていった。

 そしてミーティングが終了すると、それぞれの地区へパトロールへ向かう。

 その姿をアズミとタイコウとヒジリが見守る。アズミはヒジリに言った。

「金山所長。私の我儘を受けてくれて本当にありがとうございました」

「我儘? なんのことですか?」

 ヒジリがまっすぐ見ながら言う。アズミはお忘れですか? と笑う。

「明智大学大学院が悪霊マーラーの差し金で炎上した時、貴重資料が家に保管していたとはいえ、絶望しました。このままでは研究ができないと。そんな時、阿部さんのお話を思い出したんです。彼女がヤタガラスの新人浄化師であることを思い出した。私は…己の研究欲のためにヤタガラスを利用したに過ぎない」

 アズミの言葉にヒジリは言った。

「確かにあなたはそう思っているかもしれない。しかし、ヤタガラスにとって研究者の存在がどれだけありがたいかをあなたはご存知なかった。だからこそ、大浜さんからお話をいただいた時は、本当に嬉しかったですよ」

 それに…とヒジリは続けた。

 ヒジリはアズミの他にタイコウもヤタガラスにやってきたことも嬉しかったという。タイコウは明智大学大学院でアズミの元で助手をしている大学院生だ。

「研究者の卵なら実践を積んだほうが早いって思ったし、木俣くんはいつか頼り甲斐のあることを成し遂げるって最初から思っていたよ」

 ヒジリがそう言うのは悪霊マーラー浄化作戦で、タイコウがよりたくましく、頼れるような存在になっていたからだ。年上の岩永兄妹に指示を出し、コウシロウとやりとりをしたのは、他でもないタイコウだった。

「君がいなければ…俺たちはどうなっていたか…。木俣くんは今後どうするんだい?」

 ヒジリの質問にタイコウは言葉を詰まらせた。ヤタガラスにいることが当たり前すぎて、今後のことを考えていなかった。本来は明智大学大学院が再建するまでという期限付きだ。再建したらアズミとタイコウはヤタガラスから離れることになる。

 アズミはまだ考えている、と伝えた。しかし、アズミにとってタイコウは大事な教え子。彼の決定を最優先とし、彼の決めた道を応援し、支援していくと決めていた。

「ま…、ゆっくり考えなさい」

 ヒジリはそう言って草薙館へ戻る。

 すると草薙館の門が開いた。その音に気付いたタイコウが振り返ると、そこには大きなフルーツバスケットを持ったフウマの姿があった。

「三嶋さん?!」

「浄化師たちは…、どうやら入れ違いか」

 フウマの声にヒジリが引き返してくる。フウマはヤタガラスの全快祝いで見舞いの品を持ってきてくれたのだった。

「夕方には戻る。それまで草薙館でゆっくりしていけばいい」

「おお! そうさせてもらいます! 新人ちゃんや、ミホちゃんや、サトミちゃんに会いたいし!」

 フウマはそう言って草薙館の中へ入っていった。その際、タイコウが「全員女性浄化師じゃん」と呟いたが、フウマには一切聞こえなかった。



 スセリは出発前に小型拳銃を取り出した。出っ張っていた鳥の銀細工の装飾が小型拳銃に完全に埋まっている。この鳥の銀細工こそ、衝撃解除装置、通称トリガーだったがそれを解除したままになっている。

 トリガーは引っ張り出せばまた作動可能だが、スセリはそれを引っ張ろうとはしなかった。もうトリガーに制御されなくても、彼女は武器を操れる。悪霊マーラーを浄化できたのも、トリガーを解除するという決断をしたからこそ成功したとも言える。

 スセリはホルスターに小型拳銃をしまったところで、声がかかる。

「阿部。行くぞ」

「はい!」

 ヨシキに言われてスセリは草薙館を出て行った。二人はチュウオウ地区から出るバスに乗り、担当地区へ向かう。ヨシキとスセリは同じ方向へ向かう為に、一緒に行動していた。

 バス停付近の道路には多くの車が行き交いし、人々は仕事へ向かうためにせかせかと歩いている。カワグチはいつもと変わらない様子を見せている。

 するとスセリはヨシキに話しかけた。

「ヨシキさん。私、寝ている時夢を見ていたんです。地獄の業火の中でお母さんに会いました」

「サミラさんに?」

「はい。あなたの行くべき場所はあっちだって言って光が差すところへ行けって言われたんです。でも、私はお母さんと離れたくなくて駄々をこねました。そしたら…あなたを待っている人を泣かせるの? って怒られたんです。それに…目を覚ましたら、すぐに言いたいことがあったので…」

 スセリはヨシキの顔を見上げて言った。

「ヨシキさん! やっと会えた!」

 ヨシキは目を見開いて動揺した。しかし、すぐにその時の記憶がどんどん蘇ってくる。

 ヨシキは思い出した。その言葉はスセリが目覚めた時に言った言葉だった。目の前にいたヨシキを認識して言った言葉かと思えば、あの時のスセリは意識朦朧としていて、目の前にいるのがヨシキだと判別できなかったという。

 きっとヨシキでなくても目覚めてすぐに言いたかった言葉が、「ヨシキさん、やっと会えた」という言葉だった。ボロボロの状態で意識朦朧としながらも、スセリはヨシキを求めていたということだ。

 それを聞いたヨシキは顔をそらした。なんで顔を逸らすんですか? とスセリがヨシキに聞く。ヨシキは顔をほんのり赤くしていた。


 ヨシキはスセリに惚れている。


 ヨシキはそれを自覚してしまったのだ。ヨシキは意を決して、振り返りスセリに想いを伝えようとした。

「あのな、阿部…。僕はさ…、阿部のこと…!」

 振り返った瞬間、スセリはヨシキより離れた場所にいた。

「え?!」

「ヨシキさん! 早くしないとバスに乗り遅れますよ!」

「へ?! あ、ああ…」

 ヨシキの告白はタイミング悪く不発に終わった。ヨシキはスセリを追いかけて小走りになって追いかける。しかし、ヨシキはいつか告白できればいいと思っていた。なぜなら、ヨシキの首には赤い浄化水晶のペンダントが光っているからだ。

 ヨシキのペンダントは悪霊マーラー浄化作戦において、お守りとして悪霊対策部から借りたものだった。しかし作戦終了後にヨシキはコウシロウに申し込んでペンダントを譲り受けたのだ。それはスセリと偶然にもお揃いのペンダントになっていた。

 独占欲丸出しの状態にヨシキも心が狭いと思うが、同じものをつけていることに喜びと愛しさが溢れ出す。

 バスを待っている間、スセリはヨシキの名前を呼んで、笑って答えた。


「私、幸せです」


 それを聞いたヨシキは驚いた。

 スセリは今まで楽しいや頑張ると言っていても、自分が幸せだとは一切言っていない。それはスセリがまだ心の中に恨みの塊を持ち続けていて絶望を捨てきれていないからだった。

 彼女が物心ついた時から環境が特殊だった故に、常に絶望と隣り合わせの生活を余儀なくされてしまったからだ。いつの間にか「幸せ」という言葉を忘れてしまっていた。

 初めて、自分が幸せだと言ったスセリの笑顔は輝いていた。まさに、女神のような神々しさを持っていた。

「そうか…」

 ヨシキは静かに微笑んだ。

 二人はバスに乗っていつものようにパトロールへ出かけて行ったのだった。バスに揺られながらバスの車窓に映るどんどん変わっていくカワグチの景色。スセリはその変化を静かに楽しんでいた。



 私の人生なんて平凡なものに終わるって思っていた。それなのに、私の中にある不思議な力が目覚めた。突如として現れたその力を私は拒んだ。まさに、「怪物」のように私じゃなくなるみたいで怖かった。

 でもその力があれば困っている人を救える。守れる。

 その言葉で…私はありふれた日常を捨てる覚悟ができた。非日常に突き進んだ結果、私の人生は全部変わった。

 自分の人生に絶望して全てを恨むことしかできなかった私が、今では人々の幸せを願うための職業についている。なんとも不思議な運命の巡り合わせなんだろう。

 私はこのカワグチが好きだから。ヤタガラスのみんなが大好きだから。そして…何にも代えがたい大切な人が…いるから。

 どうかこんな幸せが続くように。私の中にある負の感情が、絶望が、いつか消えて、心の底から笑えるようになる日まで、私は闇夜を駆け抜ける。

 私は、日本御霊浄化組合所属の浄化師・阿部スセリなんだから---。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

最初の構想から約2年。ようやく完結することができました。

スランプにより執筆中断、病気療養による活動休止などあり、更新が滞ってしまった時期はありますがこうして完結できて嬉しく思います。

是非、最後まで読んでいたいて感想・評価・あわよくばレビューなんかもしていただけたら嬉しく思います。

また、本作を別小説投稿サイトにも投稿するつもりです。

他の皆様がどう思ってくれるのか、楽しみにしています。投稿日時に関しては後日ツイッターでご報告させてもらいます。

よろしくお願いします!


☆Manatsu Fujinami☆

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