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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
最強の悪霊マーラーとの死闘・後編
129/130

光の先へ〜I finally met!〜

光の先へ〜I finally met!〜



 夢の中で光の道を目指して歩いていた。

 私を待つ人たちの元へ帰るために。

 私は地獄の業火に身を焼かれる前に現世へ戻されたみたいだった。

 私の頬に落ちた熱い涙の感触は忘れられない。

 光の先に進んだ時、私が一番会いたい人にこう言う。

 ヨシキさん! ようやく会えた!



 悪霊マーラー浄化作戦から一週間後。

 午前十時。アオキ地区。病院。一般病棟廊下。

 ヨシキは歩けるまでに回復していた。しかし、スセリの意識回復の連絡はまだ来ていない。ヨシキはスセリの病室を探し当て、時間が許す限り見舞いに訪れた。

 音のないその部屋は孤独を嫌うスセリにとっては耐え難いものと考えたヨシキは、ずっとたわいもない話を延々と続けた。

 その意味を己に問い続けながら。

 そして今日もヨシキは一人でスセリの病室を訪れる。まだスセリは意識不明のまま眠り続けている。ヨシキは無理して笑顔を作り、話しかけた。

「阿部、聞いてくれよ。昨日大宮から連絡があったんだけどさ、僕と阿部以外の浄化師が全員退院許可が出て草薙館に戻ったんだってさ。早く僕たちも草薙館に帰りたいよなあ」

 反応のないスセリに心が引き裂かれそうになりながらヨシキは続ける。

「阿部、聞いたぞ。お前、トリガー解除したそうだな。すごいよ。初めて会ったときは僕の拳銃使って手を腫れたの覚えてるか? それ以来だな。でも、もうこれで小型拳銃も卒業だな。目覚めたら…新しい武器の…新調を…」

 ヨシキが話しているが途切れ途切れになっている。なぜかといえば簡単でヨシキの目に涙が浮かんでいた。しかし、スセリの前で泣いてはいけないとヨシキは涙をぬぐった。

 ヨシキは窓の外を見て涙を飛ばす。

 涙なんかどこかへ飛んでいけ、と言わんばかりだ。呼吸を整えた後、ヨシキはスセリの方を見る。やはり眠ったままだ。ヨシキはまた笑う。

 また後で来るよ、と言ってヨシキが立ち上がり、歩き出そうとした次の瞬間だった。その一言でヨシキの時は一瞬で止まった。


「…ヨシキさん」


 ヨシキは目を見開いて振り返る。

「…?!」

 ヨシキが振り返った先にはスセリがうっすらと目を開けてヨシキを見ていた。認識が曖昧なのか、ヨシキを探して目が小刻みに動いていた。ヨシキは急いでスセリの元へ顔を近づけた。

「…阿部?」

「…ヨシキさん?」

 消え入るような小さな声だったが、ヨシキの耳ははっきりとスセリの「ヨシキさん」の声を捉えた。スセリが意識を取り戻したことを認識したヨシキは堪えていた涙が一気に溢れ出す。

「阿部!」

「…会えた」

「え?」

「ヨシキさん…。ようやく、会えた…」

 スセリは少しずつ言葉を紡いで言った。ヨシキはスセリをベッドの上から抱きしめた。スセリの病状などお構いなしで、ただただスセリの温もりを感じたくて突発的に行動を起こしてしまった。

「阿部…! 阿部…! よかった! 生きててよかった…!」

「…」

 ヨシキに抱きしめられてスセリはこれ以上何も言わなかった。しかし、抱きしめられたヨシキの腕の強さ、耳元で溢れるヨシキの熱い吐息からヨシキが積もらせたスセリへの想いを感じる。

 その想いにスセリは一筋の涙を流した。

 ヨシキはずっとスセリの名前を呼び続けた。もうスセリがもう一度意識を失わないようにこの世に繋ぎとめるために、必死に名前を何度も何度も呼び続けた。

 ヤタガラスの女神様と女神を守る騎士の再会だったが、今の様子ではヤタガラスの女神と彼女を守る役目にありながら女神に恋い焦がれる騎士のようだった。スセリとヨシキは無事に再会を果たしたのだった。



 午後十一時。チュウオウ地区。草薙館。パブリックルーム。

 体力回復したサトミ、シュン、ミホ、ヒジリは無事退院し草薙館へ戻ってきた。久しぶりの草薙館にホッとするが、体力回復したとはいえ本調子ではない。まだ仕事復帰ができない。

 全員がそれぞれで時間を持て余していた。

「これサトミ先輩が?」

「ええ! この前ナミさんが持ってきてくれた菓子折りあるでしょ? 作ってみたんだけどどうかな?」

「めっちゃうまい! サトミ先輩天才!」

 サトミは料理をして時間をつぶしていた。悪霊マーラーの出現によって、ヤタガラス内は非常にピリピリとしていて空気が張り詰めていた。しかし、その時間を埋め合わせするかのように、今、過ごしているのだ。

「騒々しいな」

 やってきたのはシュンだった。シュンはソファに座りテレビを見始めた。

「鳴海先輩! サトミ先輩がお菓子作ってくれたんですよ!」

「ほお。後で食う。立石、食い過ぎると太るぞ」

「いいえ! 今は栄養を取れって言われてるんで!」

 シュンの言葉にミホは笑顔で返した。静かだった草薙館に騒がしさが戻ってきた。しかし、心残りはある。

「スセリちゃん大丈夫かな…」

「ミホ…」

「熱田先輩は意識戻ったらしいけど…、スセリちゃんは…」

 ミホが暗い顔をする。ヨシキが意識回復していたことはすでに連絡をもらっていたが、ヨシキよりも重傷だったスセリはまだ予断を許さない状態が続いた。

 スセリのことを案じるミホたちの元へ、タイコウがパブリックルームへ慌ててやってきた。

「みなさん!」

 息を切らしているタイコウに全員が振り返った。手にはスマートホンを握りしめている。何事かと全員が振り返る。

「タイコウ! なんやねん! そんな息切らして!」

「…病院から連絡があって!」

「病院? スセリちゃんかいな?! スセリちゃんは無事なん?! はよう教えや! タイコウ!」

 ミホがタイコウに催促をする。タイコウは息を整えて笑顔で言った。

「スセリさんの意識が回復したそうです! あとは体力回復を待つだけ! もう大丈夫です!」

 タイコウの言葉に全員が驚いた。そして、ミホはサトミの元へ駆け寄って抱き合った。

「よかったあ!」

「そうね! よかったわ! 早いとこお見舞いに行かないとね!」

 サトミがそう言うと、タイコウは今日はスセリが意識回復した後で検査三昧のために、今日以降の見舞いをしたほうがいいと忠告した。

「木俣の言う通りだな。俺たちが今行ったところで阿部はぐーすか寝てるだろうな…」

「そうですね。あー、早くスセリちゃんに会いたいなあ!」

 ミホはそう言って窓の外を眺めた。空は真っ青でどこまでも広がっていた。ミホは早くスセリに会いたいとその想いを、青空に馳せるのであった。



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