表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
最強の悪霊マーラーとの死闘・後編
118/130

迫り来る狂気〜Bloody warriors~

迫り来る狂気〜Bloody warriors〜



 空気が重い。空気が淀んで気持ち悪い。今すぐにでもここから逃げ出したい。

 だけどそんなのことは許されない。

 私はこの檻の中で目の前の元凶を断たなければならない。

 それが私たち、ヤタガラスの使命だから。

 悪霊マーラーの狂気はこんなのもではなかったと今では思う。



 どす黒い重い空気の中にヤタガラスは苦しめられていた。

 瘴気を無意識に大量に吸わないように思わず口を腕で塞いでいる。ライフルを構えているシュンは悪霊マーラーを虎視眈々と狙っているが、やはり瘴気が邪魔をして手元が狂う。

 シュンはヤタガラスのスナイパーの異名を持つが、そんなシュンでさえ手元が狂う可能性がある。瘴気はそれほど人を憔悴させ、闇へ引き摺り込もうとさせる。手元が狂えば、弾丸は間違いなく仲間に被弾してしまう。

 浄化水晶なので死にはしないが、怪我は免れない。

 シュンはポケットに入っていたスマートホンを取り出した。

 液晶画面には時刻が映し出されている。


 21:00


「一時間か…。悪霊マーラーはまだ力尽きねえか…」

 シュンは息を吐いた。

 スセリは口元を押さえながら少しずつ瘴気の中を進んでいった。その様子を見ていたのはミホだった。ミホも口元を押さえながらスセリに小さな声で言った。

「スセリちゃん! 無謀に進むのはよくあらへん!」

「でも…! 攻撃を仕掛けないと悪霊マーラーを追い込めない!」

 ミホはスセリの腕を止めて静止させた。ミホはうちにいい考えがある、と伝えた。ミホは矢を一本取り出して構えた。そしてギリギリと弦を引いて、狙いを定め矢を放った。

 すると矢が触れた瞬間、瘴気がどんどん消えていく。

「ほお・・・」

 消えていく瘴気に悪霊マーラーが静かに微笑む。まるで愉しんでいるかのように。

「瘴気が消えてく?」

「浄化師は瘴気を払うこともできるんやけど、矢はその効果が一番強いんよ」

 ミホはニヤリと笑った。あの明るいミホだ。今までは悪霊マーラーに肺挫傷を負わされてほぼ寝たきり生活を送っていたとは思えないほどの判断力とフォロー力にスセリは驚きを隠せなかった。

 ミホは瘴気を完全に払うため、矢をもう一本射ようとしている。すると大きな声で叫んだ。

「これで瘴気が完全に払えます! 攻撃を!」

 スセリはミホが作ったタイミングを逃さまいと小型拳銃を構えて、臨戦体制へ入る。全員が臨戦体制へ入るとミホは矢を離した。

 ミホの放った矢が飛んだ瞬間に淀んだ空気が一掃され、悪霊マーラーの姿が見える。

「見えた!」

 その好機を最初に掴んで行動を起こしたのはシュンだった。シュンは間髪入れずに悪霊マーラーに向かって弾丸を撃ち込んだ。

 弾丸は見事悪霊マーラーに命中。悪霊マーラーは弾丸の中にある浄化水晶で苦しみだす。そして次に飛び出したのはヒジリだった。ヒジリは武器である鞭を引っ張り、悪霊マーラーを睨んだ。

「お前」

「貴様は多くの人の命を奪った。佐和目さんの苦しみを…、味わえ」

 ヒジリは鞭を悪霊マーラーに叩きつけた。

 鞭は叩きつけることで悪霊を払う、浄化師の叩く力が強ければ強いほどその効果は強い。物理的攻撃の炸裂するかなり「痛い」攻撃だ。

 ヒジリの怒りの攻撃が悪霊マーラーに襲いかかる。かつてのリーダーであるユウはかろうじて悪霊マーラーの手を免れている。しかし、長い時の中で悪霊マーラーからの報復を恐れていることは変わらない事実だ。

 悪霊マーラーもやられっぱなしではない。

 悪霊マーラーはニヤリと不敵な笑みを浮かべて連続攻撃を仕掛けるヒジリの鞭をつかんだ。

「何?!」

 ヒジリが表情を固める。すると鞭に遠心力をつけて悪霊マーラーはヒジリを投げ飛ばした。

「くっ?!」

 ヒジリが地面へ叩きつけられた。

「金山さん!」

 スセリがヒジリの名前を叫んだ。するとヒジリに悪霊マーラーがじわじわと詰め寄ってくる。地面に叩きつけられたヒジリは痛みのせいで動きが鈍くなってしまっている。

「佐和目…。あの青二才か…。愚かだ。わらわの目を欺こうなんて…」

 悪霊マーラーは笑った。

 悪霊マーラーがヒジリに近づいた次の瞬間、悪霊マーラーに一閃の光の線が真横に貫いた。

「大宮?!」

 ヒジリを助けるためサトミが前へ出て、悪霊マーラーを斬りつけたのだった。悪霊マーラーが怯んだ隙にサトミはヒジリを安全な場所へ避難させた。

 荒げた息を整えてサトミは脇差を構えて、悪霊マーラーを睨みつけた。

「濃い瘴気! なんて気持ち悪くて淀んでいるの?!」

 サトミは瘴気を吸い込まないように口を袖で塞いだ。すると悪霊マーラーがサトミに攻撃を仕掛けようと瘴気の塊を振り下ろそうとする。サトミはとっさに脇差で阻止した。

 火花のような小さな光が散らばり始める。瘴気と脇差の刀身に入っている砕いた浄化水晶がぶつかり合っている状態だった。

 瘴気の重さと悪霊マーラーの攻撃の強さにサトミは抑えるのがやっとだった。

「千年生き抜いたわらわが、おまえのような女に浄化されるわけがない!」

 悪霊マーラーは呪いのような言葉を吐き捨てて、サトミを弾き飛ばした。弾き飛ばされたサトミの体は宙を舞い、瘴気が刃のように襲いかかる。

 サトミもまだ負けてはいない。脇差を素早く動かして瘴気を一気に浄化していく。

 しかしその脇差を逃れた瘴気がサトミの体を斬り刻んでいく。だんだんと制服が血で染まり始める。ついにサトミの力が尽きて、地面に叩きつけられた。

 地面に叩きつけられてもなお動こうとするサトミに悪霊マーラーが近づいた。そしてサトミの首を乱暴に掴むと、サトミの体を宙づりにする。首の圧迫感にサトミは悪霊マーラーの手に傷をつけようとするが、人間には無駄な抵抗だった。

「その程度とは笑わせる・・・。死ね」

「く・・・、かっ・・・?!」

 サトミの首を絞める力が増してきて、サトミは必死に呼吸を確保するのに必死になっていた。

「サトミ先輩から離れい!」

 ミホの声が轟き、サトミの首を絞めていた悪霊マーラの腕にミホの放った矢が貫いた。サトミは地面に叩きつけられ、激しく酸素を求めて嗚咽した。

「今度はうちが相手や! やれるもんならやってみいや!」

 ミホが二本同時に矢を弓に構えて矢を放つ。ミホは休む暇もないほどに何本も矢を射る。

 すると悪霊マーラーの体にキラッと輝くものが見えた。

「あれは・・・もしや…!」

 ミホは光るものをめがけて弓を構えて狙いを定めた。その様子を木陰で狙っていたシュンが見ていた。するとシュンはインカムに向かって話し始めた。

「こちら鳴海。悪霊対策部、応答せよ!」

『こちら悪霊対策部』

「その声は大浜さんか? 悪霊マーラーの体に光る箇所があるんだ」

 話している相手はカワグチ市庁舎内にある悪霊対策部にある特別対策部で浄化の動向を見守っているアズミだった。アズミもヤタガラスの誰からも連絡がないために不安になっていたが、シュンの連絡に待ってましたとばかりに食いついてくる。

『恐らくそれが以前話に上がった阿部サミラさんが攻撃した浄化水晶かと思います! そこを狙えば勝機はあります!』

「なるほど! わかった!」

 シュンがインカムを切ろうとした瞬間、イヤホンから「待って!」とアズミの声が聞こえて来る。それを聞いたシュンは電源を切るのを躊躇した。

 シュンがどうしたのかと聞くとアズミはシュンに現在のヤタガラスの状況について聞いたのだった。悪霊対策部にいるアズミたちには完全な監獄と化したあの森には近づけないのだ。

「金山さん、大宮の二名が負傷により戦線離脱。現在、俺と立石、熱田、阿部の四名で対応しています」

 シュンは詳細を伝えるとインカムを切った。そしてキラリと光った箇所をめがけてライフルを向けて狙いを定める。

 そしてインカムでミホに声をかけた。

「こちら鳴海。立石、聞こえるか?」

 シュンのイヤホンにはミホの呼吸音が聞こえ、その後ミホの声が雑音混じりで聞こえてきた。

『こちら立石。なんですか?』

「悪霊マーラーの体に光るのがある。それが弱点だ」

『弱点て…、まさか、スセリちゃんのママが投げたっちゅー・・・』

「そうだ。立石、俺もそこを狙っている。攻撃をすることで浄化水晶は砕けることはない。遠慮なくやれ!」

『ラジャ!』

 ミホとのインカムを切ると、シュンはイヤホンから聞こえる音に集中した。ミホが矢を発射するタイミングで狙おうというのだ。

 するとミホが力一杯引いていた手を離し、矢が悪霊マーラーめがけて飛んでいく。

 その瞬間、シュンのイヤホンにビイン! と弦が揺さぶられる音が聞こえる。その音が聞こえた瞬間に躊躇いもなく、引き金を引いた。

 ミホの矢とシュンの弾丸は一直線に悪霊マーラーの元へと飛んでいき、キラリと光る浄化水晶へ直撃した。

「ぐわっ?!」

 悪霊マーラーが苦しみだした。

 悪霊マーラーは攻撃するのをやめて地べたに這いつくばった。それを見たミホは安堵の息をもらした。目の前で悶える悪霊マーラーは今攻撃を仕掛けても対抗することはないと考えた。

 ミホは弓矢を取り出し、さらに戦力を削ごうとした。弓を構えてまっすぐ悪霊マーラーに向かって狙いを定めている。

「…甘い」

 すると目の前にいた悪霊マーラーの姿が瘴気とともに消えて見えなくなった。

「何?!」

 ミホが周囲を警戒すると、背後から重い気配を感じてすぐさま振り返る。するとそこには苦しんでいたはずの悪霊マーラーがいた。悪霊マーラーは瘴気で生み出した衝撃波をミホに浴びせる。

 ミホの体は吹っ飛び、手から弓が離れ、地面へ叩きつけらてた。制服はボロボロになり、所々血が滲み出していた。

 ミホが起き上がろうとすると、悪霊マーラーがミホの腕を掴み、持ち上げる。腕一本で体を支えているため、体から腕が引きちぎられるような感覚に顔をしかめる。

「離して!」

 ミホが低い声で唸ると、悪霊マーラーはニヤリと笑った。

「わらわを出し抜くなど愚かな…。わらわに歯向かうから、同じ運命の辿るのよ・・・」

 悪霊マーラーはミホを投げ飛ばし、ミホの体は宙を舞い、無残にも地面へ叩きつけられた。ミホは全身の痛みで動けなくなり、武器である弓もバラバラになって使用不可能となってしまった。

 ミホは頭につけていたバレッタを外し、体に当てた。体にまとわりつく瘴気を消すためだ。もうミホは全身打撲で動くことはできない。濃くなっていく瘴気の中でミホは呟いた。

「…ママ、姉ちゃん、パパ。ごめんね…。うち、ここまでやわ…」

 ミホは家族の名前を言って静かに意識を手放したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ