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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
新人浄化師阿部スセリ編
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生命の鼓動〜what I saw at the edge of despair〜

生命の鼓動〜What I saw at the edge of despair〜



 悪霊は一般市民を殺して喰べる。そして唯一悪霊に対抗できる浄化師ですら、悪霊の餌食になることがある。

 息も出来ない。

 呼吸が苦しい。

 脇腹からは血がダラダラと垂れている。気持ち悪い。

 私は「死」を感じた。起き上がる体力はほとんど残されていない。



「・・・!」

「・・・て!」

「・・・スセリ! 起きて!」



「?!」

 スセリの頭の中に響いた声にスセリは目を覚ました。痛みをこらえて攻撃をかわした。

「小娘にはほぼ力は残っていない。まだ動けるのか?」

 スセリは息を切らしながら木の陰に隠れた。悪霊には人間の匂いで感づかれてしまうため、意味はないがスセリにはこうするしか回避する方法がわからなかった。

 悪霊はスセリを探す。

 スセリは息を整えながら体力を少しでも回復しようとする。


 どうする? このままじゃ体力が尽きて殺られる! この状況を回避する方法はないの?! 今は助言をくれる、ヨシキさんやサトミさんはいない! 自分で何とかしないと!

 考えろ! 考えろ!

 必ず生きて浄化師になって先輩たちのところに帰るんだ!


 スセリはこの状況を打破する作戦を考える。

 スセリは木の陰に隠れながら悪霊を見据える。弾丸はすでに何発か撃ちこんだ。浄化水晶の力がじわじわと効き始めている証拠がスセリにはわかった。

 明らかに悪霊の動きが遅くなっていた。スセリは今まで何発撃ちこんだかを数える。そしてホルスターの中にある真っ赤な浄化水晶の入った弾丸を見た。

 スセリは目を見開いた。

 ある作戦を思いついた。しかし、これはあまりにも馬鹿げていて笑いたくなるほどだった。しかし、今の状況を打破する方法はこれ以外思いつかない。

 きっとサトミやヨシキならばもっと最適な方法があると言うだろう。経験の少ないスセリにはこれしか思いつかなかった。

 スセリは小型拳銃を開けて赤い浄化水晶の弾丸を入れた。そしてスセリは悪霊の意識を引かせるため、悪霊に向かって弾丸を放つ。

「見つけたぞ!」

 スセリの弾丸に悪霊は襲いかかる。弾丸は悪霊に当たらずそれてしまう。


 逸れた!


 スセリは走り続けた。

 しかし、スセリの足がもつれた瞬間を見逃さなかった。スセリの体をがっちりと握られた。スセリは悪霊に捕まってもう逃れる術をなくしてしまった。

「・・・!」

 腕の中でもがくスセリに悪霊は笑う。

「もがいても無駄! お前を握りつぶして喰ってやる!」

 内臓を潰さんとばかりにスセリの体に激痛が走る。すると、スセリはニヤリと笑った。するとスセリはヒジリからもらった赤い浄化水晶を掴むと、自分に絡みついた悪霊の手に突き刺した。

「ぎゃあっ?!」

 悪霊が浄化水晶の影響を受けて苦しみだす。そしてスセリは小型拳銃を悪霊に向けた。悪霊に銃口が突きつけられいることに気づいた時には、時すでに遅かった。

「私の勝ち」

 スセリはそう言うとバン! と悪霊に向かって弾丸を撃ちこんだ。すると悪霊は断末魔をあげて消えていく。スセリを拘束していた手も消えてスセリは地面に叩きつけられた。

「ゲホッ!」

 スセリが激しく咳き込みだした。


 やった・・・。体が重い。ところどころ血が出てる。なんとか生き残った。もしこの状況で悪霊が出たらもう太刀打ち出来ない・・・。


 スセリの考えた作戦はこのようなものだ。悪霊に向けて挑発にも似た弾丸を撃ち込む。そして逆上した悪霊にわざと捕まり、自分の自由を奪う。赤い浄化水晶は浄化能力が強いことを信じて悪霊に突きつけたのだった。

 自らを犠牲にする覚悟で行ったスセリができる命がけの作戦だった。

 スセリは薄れゆく意識の中で息を整えていた。

 朝日がゆっくりと昇る。スセリは目を覆う。ようやく浄化師認定テストが終わる。明るくなってしまえば大抵の悪霊は活動できない。スセリは怪我を負いながらもなんとか生き残ることができた。



 一方スセリがいる林の外では悪霊対策部のコウシロウとスセリを迎えにきたヨシキが待っていた。

「あの林には新人浄化師なら倒せる程度の悪霊が集まっています」

「そうなんですか。怪我をしないでくれればいいですけど」

「そろそろ帰ってくるはずです」

 すると林からトボトボと人影が見えた。どうやらスセリがこちらへ歩いてくるようだった。スセリの人影を捉えたヨシキが近づいてくる。

 お疲れ様。

 そう言うためにヨシキが近づくと、目を見開いた。ヨシキの目に飛び込んだのは、制服は土で汚れ、足に切り傷を作り、顔にも切り傷を作り、そして終いには脇腹は真っ赤に染まっていた。

 スセリはなんとか歩いている状態だった。

「阿部・・・」

「ヨシキさん・・・。私、合格ですよ・・・ね?」

 スセリの体から力が抜けていく。スセリの体は地面に引きつけられる。すると、ヨシキはスセリをしっかりと抱きとめた。

「阿部! しっかりしろ! 綿津見さん! どういうことですか?! こんな大怪我をさせる悪霊が中にいたんですか?!」

「そんなことは! どうして?!」

 スセリの怪我の度合いはベテランでも倒すのが困難な強さを誇る悪霊であることがわかる。新人浄化師のためのテストには似合わない悪霊がいたことになる。

「綿津見さん。阿部はこちらで預かります! 失礼します!」

 ヨシキはスセリを抱きかかえて、車へと運び込んだ。コウシロウはスセリが出てきた林を見つめる。スセリが歩いてきたアスファルトの上にはスセリの血が垂れていた。

 ヨシキはスセリを後部座席に寝かし、何度も声をかけた。

「阿部! 気を確かにもて!」

 ヨシキの言葉にスセリは意識を失いそうになりながらもなんとか意識を保った。

 ヨシキはスセリの状況を停車中の車の中で連絡する。

「大宮! 熱田だ! 阿部のテストは終わった! だが阿部が予想以上に大怪我してるんだ! 応急処置の準備をしておいてくれ! 金山さんにも伝えろ!」

 ヨシキはサトミに状況を説明し、草薙館へ戻るまでに怪我の手当てをできる準備をさせた。

 アオキ地区から車を飛ばして十五分後。

 ヨシキの運転する車は草薙館へ到着した。玄関では連絡を受けたサトミとヒジリが待っていた。スセリはヨシキに抱きかかえられて草薙館へ入る。

 変わり果てたスセリの姿にヒジリとサトミは言葉を失う。

「スセリさん! どうして!」

「熱田! 仮眠室に応急処置ができる準備をした。そこへ阿部さんを!」

「了解!」

 ヒジリの指示に従ってスセリは仮眠室へ運び、ベッドに横たわらせた。ヨシキはスセリに言い続けた。

「阿部! 草薙館に戻ってきたぞ! もうすぐ医者もくる! しっかりするんだ!」

「・・・ヨシキさん」

 色を失いかけた瞳をヨシキに向けるスセリ。すると、仮眠室の扉が開いてそこへサトミがやってくる。

「お医者さん来たわ!」

「わかった」

 サトミはヨシキを連れて仮眠室を出て行った。

 作戦準備室にいるヒジリはヨシキに一体何があったのか聞いた。するとヨシキは今回のテストの中で新人浄化師では歯が立たない強い悪霊がいたことをヒジリに伝えた。もしかしたらその悪霊にスセリは立ち向かったのだと推測を交えながら話した。

「そうか・・・。見た目に反して傷は浅そうだ。あとは医者に任せよう」

 ヒジリは椅子に座った。



 大怪我のスセリが草薙館に運び込まれて数時間後。

 仮眠室から医者が出てきた。ヒジリが医者に状況を聞いた。

「阿部さんは?」

「傷の処置は終わりました。見た目に反して傷は深くありません。命に別条はありませんよ」

「よかった・・・。ありがとうございます」

「ただし、怪我が浅いとはいえ大怪我には変わりありません。傷が塞がって動けるようになるまで仕事は禁止です」

 医者はそう言って草薙館を後にした。

 ヒジリは仮眠室へ入ると絆創膏や包帯が巻かれたスセリが眠っていた。スセリは疲れが出てしまったのか、眠ってしまった。スセリの頭にそっと触れてヒジリはよく言った。

「阿部さん。よく頑張ったね。まずは、ゆっくり休みなさい」

 その日の夜。

 スセリ以外の五名がパブリックルームでは沈黙が流れていた。仕事に行っていたミホやシュンもスセリの怪我を聞かされていた。スセリは今も眠っている。

「熱田先輩。どうしてスセリちゃんはああなってしまったのですか?」

「悪霊対策部の綿津見さんによると、新人浄化師では歯が立たない強い悪霊がいたらしくて、それに阿部は立ち向かったんだ」

 ヨシキはテーブルのご飯を口に運んだ。普段喋らないシュンも心配そうに見つめていた。

 ヒジリは全員に言った。

「阿部さんの傷は思ったより深くないそうだ。ただ大怪我には変わりない。傷が塞がって動けるようになるまで阿部さんは絶対安静だ。もし、阿部さんが仕事に行こうとしたら全力で止めてくれ。いいな?」

 ヒジリの言葉に全員は頷いた。

 シュンがヒジリに聞いた。

「金山さん。阿部の浄化師認定はおりるんですか? テスト中に大怪我をして戦闘不能になるとテストは無効判定になってしまう。今回、阿部は大怪我を負った。どうなんですか?」

「俺の予想ではおりると思う。俺の経験上、テスト中の戦闘不能が無効判定になる。今回の阿部さんの場合、怪我を負いながらも浄化を続けた。条件には引っかからないと思うんだ」

 ヒジリはそう言った。

 スセリの状況は合格か不合格かギリギリのラインだった。

「悪霊対策部の綿津見さんの判断を委ねよう」

 ヒジリはそう言った。

 夕食を終えてヨシキは部屋へ戻る。制服を脱いで部屋着に変わる。そして部屋にある小型冷蔵庫から炭酸ジュースを取り出してそれを飲みだす。

「・・・」

 ヨシキは多くを語らない。ただ脳裏には大怪我をしたスセリの姿が離れないのだ。ヨシキだけではなく、全員がスセリの回復を願ったのだった。



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