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Trigger〜悪霊浄化異聞〜  作者: 藤波真夏
新人浄化師阿部スセリ編
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スセリ〜The night of fate〜

藤波真夏です。色々ありましたが新しい小説を投稿させてください。世界観に浸っていただきたいため、前書きと後書きは省略させていただきます。

よろしくお願いします。

新人浄化師阿部スセリ編

スセリ〜The night of fate〜



 そう、私は平凡な日常を過ごしていたはずだった---。

 なのにどうして・・・こうなった・・・。



 真っ赤な夕焼けに照らされた裏路地で人影が横切る。それを追いかける人影がまた続く。

 追いかけている人物は息を切らす。高めの息切れ。女性だ。

 夕焼けが照らし出すと人影はそこで止まった。それと同時に女性も止まる。黒の短い髪を揺らして紺色の制服をなびかせる。スカートが風に揺れる。すると女性は、腰巻きタイプのホルスターから拳銃を取り出す。

 小さめの拳銃を構えている。

「返して・・・!」

 女性は喉から絞り出すような声でそう言った。人影はゆっくりと女性を見据える。夕焼けで逆行現象が起こり何も見えない。

 すると人影の肩に黒い邪悪な靄が蠢く。いかにもこの世のものとは思えないほどの靄だ。

 女性は涙を流しながら、ゆっくりと引き金を引いた。


「・・・スセリ」


 誰かが私にそう囁いた。誰だかは分からない。

 私は平凡に過ごしていた。ただ、大げさな浮き沈みもない平凡で平坦な人生を歩んでいくだろう。私はいつもそう思っていた。

 刺激が欲しい。平凡な人生なんてつまらないな。

 私はそう考えるようになった。

 そう、あの夜までは---。



 駅前は人が賑やかで忙しない日本の朝が始まった。たくさんの人々はそれぞれの職場や学校に向かって電車に乗り込む。ここはカワグチステーション。

 カワグチは都心にわりかし近いベッドタウン的な場所だ。駅前は商業施設やデパート、図書館、ゲームセンターなどが立ち並ぶ。俗に言う「なんでもある」場所だ。でも少し驚くのはカワグチ全部がこのようにコンクリートジャングルに包まれているわけではない。駅前は商業施設などの建物やマンションやビルが立ち並んでいるが、駅から離れれば高層マンションとはかけ離れた団地が立ち並び、ビルなどほとんどない。

 カワグチは自然と人工物が程よく融合した場所なのである。

 そんなカワグチステーションへ向かう道を走る女性が一人。黒い髪に白いブラウス、黒いズボンにパンプス、背中にはリュックサックを背負っている。

 明らかに仕事場に向かう人でビジネスマナーに則った格好。

 新入社員の雰囲気だだ漏れの女性、阿部アベスセリはカワグチステーションの改札へ人ごみの中に紛れて入っていった。

 満員電車に揺られて会社へ向かう。

 多くの人の波を乗り越えて会社に到着するが、満員電車のせいで気分はげんなりしている。しかし、スセリはそれを覆い隠すように元気な挨拶をする。

「おはようございます!」

 自分のデスクについて荷物整理をして、仕事へ移る。

 スセリはピッカピカの新入社員。今年大学を卒業して、熾烈な就活戦争を生き抜いて今の会社に入社した。全てが順風満帆にいっているわけではない。

 新入社員のスセリには毎日予想外のことが連発して頭がおかしくなりそうだった。新入社員ということもあってまだ手際が悪く、なかなか効率良く仕事を進めることができない。先輩に聞いて処理をし、失敗をして注意されるという日々を繰り返していた。

 仕事が終わって家に帰る頃にはヘロヘロになって疲労困憊だった。夕食を作る気にもなれないほど疲労はピークに達していた。

「あ〜あ・・・。私、何してんだろ」

 スセリがそう呟いた。マンションの一室でスセリは座り込んでいた。シンプルなカーテンと女性の一人暮らしらしいこじんまりとした部屋。しかし、中には可愛い雑貨も置いてあり、趣味嗜好が見え隠れする。

 ごくごく一般的である意味平凡な人生。

 スセリはそう感じ始めていた。紆余曲折などという人生を送ってきたわけではない。

 刺激的とは縁遠い。

 スセリはどこか物足りなさを感じていた。しかしこれが私の道なんだ、これ以上欲を求めればいずれ失敗してしまうと自分自身に言い聞かせた。



 そんなある日のこと。

 スセリはいつものように会社へ出社し、仕事に追われた。自分のできることを精一杯行う。しかし、それがちゃんと評価されているのかスセリは気になって仕方がない。

 毎日、恐怖との戦いである。恐怖に押しつぶされそうな時は自分を奮い立たせてなんとかその場を切り抜けている。応急処置のようなものだ。

 そして今日も何回も頭を下げて謝罪をし、怒涛の一日を終えた。夜は仕事終わりの人たちがたくさん電車に乗っている。スセリはカワグチステーションまで電車に揺られた。

 カワグチステーションの改札を出ると、トウキョウよりも落ち着いた街灯の明かりがあった。スセリはカバンの中に忍ばせている水筒を開けて中のお茶を飲み干した。

「はあっ・・・」

 息を吐くと歩き出した。スセリは帰り道を歩く。

 マンションまではカワグチステーションからそう遠い距離ではない。歩いて家へ帰るのだ。人気もなくなり、車通りも少ない道だ。ただその場にはスセリの足音だけが響いているだけだ。

 スセリは誰かの視線を感じて足を止めて振り返る。しかし、そこには誰もいない。

 気のせいか、とスセリは再び歩き出した。また視線を感じて振り返る。今度は気のせいではないほど明確にだ。スセリは怖くなり走り出した。


 こっちに来ないで!


 スセリはそう念じながら夜道をただひた走る。夜道から聞こえてくるのは焦るスセリの息の音だけだ。

 スセリは数メートル走ったところでスピードを緩めた。もう大丈夫だろうとゆっくりと後ろを振り返る。そこには何もいない。よかった、と胸をなでおろした次の瞬間だった。

「みぃつけた」

 スセリの耳元で重厚で不気味な声が響いた。スセリは一瞬で背筋が凍りつく。スセリの本能が言っている。逃げ出そうにも体がすくんで動かない。

「人間の女・・・。お前の魂、いただく・・・」

 その声はスセリの耳にはっきりと届いた。その声の主は確実に自分を狙っている。スセリが振り返った瞬間、それは見えた。黒い靄がどんどん大きくなって自分に襲いかかろうとしている瞬間を。

 スセリは目をつぶった。今目の前に現れたものがなんなのかなど考えている暇などない。自分はこんな場所で人生が終わるんだと思わずにはいられない。スセリには全てがスローモーションに見えた。スセリが目をつぶったその時だった。黒い靄が一発の弾丸が打ち抜いた。ぎゃあ! と叫び声が聞こえてきた。スセリは思わず尻餅をつく。すると頰に何かがかすった。

 小さな痛みが走った。目の前で起きたことが現実であることをスセリは本能的に察した。スセリが驚いているとスセリの方へ数人の足音が近づく。

「大丈夫ですか?!」

 女性の声が聞こえてくる。しかしスセリは「はい大丈夫です」の言葉を発することができず、その場で気を失ってしまった。スセリが意識を手放した瞬間、女性はスセリに近づく。

 スセリの脈を取り、ただ気を失っているだけであることを確認した。すると女性の後ろから男性が走ってくるのが見えた。

「変なところに撃つからこんなことになったじゃない」

「暗くてよく見えなかっただけだよ」

 女性と男性の会話が展開される。すると女性はスセリをどうするか? と男性に相談した。すると男性はスセリの頰にできた小さな傷を見て言った。

「こちらで介抱しよう。今夜は奴らが多い。また襲われて二次被害は困るからな」

「わかった」

 男性はスセリを抱き上げた。スセリは見知らぬ二人によってどこかへ運ばれていくのだった。



この物語は人物・職業・町名・施設名など実際のものとは異なり、架空のものです。この物語はフィクションです。実際のものとは関係ございませんのでご了承ください。

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