思慮分別
岩田多恵はごく普通の大人である。毎日至極真っ当なことを言い、毎日現実を見てあきらめる、齢38の大人である。今日も今日とて、パート先でもめ事をなだめた後、行きつけのコンビニで産毛剃りと生チョコを買って家路についていた―――のだが。
キュギュキュキキイッ!!キ―イイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。岩田多恵の魂と、女神が対面している。
「岩田多恵さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
岩田多恵(38)
レベル22
称号:転生者
保有スキル:思慮分別
HP:20
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出されるのが、この世の常という事ですか、ううーん、酷い。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が大人の前に現れた!
「ああ、スライムだね、武器も何もないとか気にしないで出現するんだね、自由だなあ…。」
うろたえない、大人。
「うんと、保有スキルが使えるんだよね、思慮分別?大人の常識ってことかなあ…?」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「ちょっと待ってください、あなたはいきなり襲い掛かろうとしていますが、そもそも私を襲う意義はあるんですか?ただ襲われるだけだなんてずいぶん一方的な損害を被る事になるんですけど。」
スライムはちょっとビビっている!
「話は通じていますよね?お互いの利害関係をはっきりさせましょう、私は生存を希望します、あなたの希望は何でしょうか、私の生存にかかわることを選択するのはやめてください。対等ではなくなってしまうでしょう?いい大人なんだから自分の意見ばかり押し付けるのはなしにしましょう、良いですね!」
あんた自分の意見押し付けとるだけやんけ!!スライムは大人のいう事の矛盾点に怒り心頭だ!!スライムは何も言わずに大人を頭から捕食した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
大人は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
大人は行きつけのコンビニで産毛剃りと生チョコを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかってたら明日のパートいけなかった…ううん、休めてたかも?はあ、仕事行きたくないな…。」
大人は、毎日変わり映えしない生活をただ漠然と過ごして、たまに羽目を外しながら年を取り、穏やかに年老いてひっそりと80歳でこの世を去ったという事です。




