なんだって?
上野梅ははごく普通の老婆である。毎日お茶を飲み、毎朝5時に目が覚める、齢78の老婆である。今日も今日とて、暇つぶしに、行きつけのコンビニでおはぎを一個と夕刊を一部買って家路についていた―――のだが。
キイイイイイ!!キュイイイイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。上野梅の魂と、女神が対面している。
「上野梅さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はい?」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
上野梅(78)
レベル70
称号:転生者
保有スキル:なんだって?
HP:2
MP:102
「というわけで、いきなり草原に放り出したのは、いったい誰だね、まあ。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が老婆の前に現れた!
「ありゃ!目の前にスライムかね!武器も何もないがね!!どうするだね!!!」
うろたえる、老婆。
「ああ、保有スキルを試さないかんな!ええと?なんだって?」
うばほん!!!
目の前のスライムが、一瞬で干上がった!
「おお、消えたがね!!」
てれれてっててーーー!!!レベルが上がった!老婆はレベルが72になった!
「ちょいと!!老婆って誰のことだね!!失礼なやつだわまあ!!」
怒り狂った老婆は、血圧が上がって頭の血管がプチっといってしまった。その場に倒れ込む老婆。そのまま老婆は意識を失い命を終えたが、その亡骸には誰一人として気付くことなく、微生物に分解されるまでかなり長い間あまざらしになっていた。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
老婆は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口に立っていた。コンビニに入る前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
老婆はおはぎを一個と夕刊を一部買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く帰ってたらひかれとったがね!!良かったわ、ひかれんで。」
老婆は、だんだん自分の言ってることが分からなくなって我がままになったのち、足腰だけは丈夫で毎日自主的に遠くまで散歩に出かけて娘のストレスをハンパないものにしたのですが、とてもやさしい孫が最後まで面倒を見てくれたので幸せに人生を終えることができたとのことです。