大量調理
松下房江はごく普通の給食のおばさんである。毎日小学校の給食を作り、毎日メニューの開発に余念がない、齢32の給食のおばさんである。今日も今日とて、来月の献立表の決定をした後、行きつけのコンビニでまゆ墨とアロエヨーグルトを買って家路についていた―――のだが。
キュキュ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。松下房江の魂と、女神が対面している。
「松下房江さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
松下房江(32)
レベル12
称号:転生者
保有スキル:大量調理
HP:18
MP:20
「というわけで、いきなり草原に放り出すの?!私まるごしっ!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が給食のおばさんの前に現れた!
「はい?!スライムでてきたよ?!武器も何もないってわかってんの?」
うろたえる、給食のおばさん。
「はっ!!保有スキル試してみる?大量調理ってあんた、何をどう調理するってーのよ!!」
うばほん!!!
給食のおばさんの前に調理台とどでかい寸胴が現れた!!給食のおばさんの手に、でっかい菜切り包丁が装備された!スライムは恐怖のあまり固まってしまった!
「何これ?!スライムを調理するの?!どんな味なんだろ、冬瓜みたいなもんかな?皮むいてお出汁で煮てみよう…。」
給食のおばさんの手には調理用にゴム手袋が装備されている!これで毒も染み込んでこない!安心して調理にすすめるぞ!!給食のおばさんは手際よくスライムをカットし、ニンジンや鶏ひき肉、ネギなどとともに煮込んでいく!よし、今日は中華風にしよう!顆粒出汁を入れてごま油塩コショウで味を調えてと…。最後に溶き卵を加えてひと煮立ちさせると、目の前にモンスターたちが列を作って並んでいた!
「はいはい!!一人一杯づつですよ!!」
モンスターたちは大喜びでスライムスープをいただいている!全員に配り終わって寸胴を見ると、そこの方にスープだけが残っていたので、そこに冷ご飯を入れておじやにして食べようとした瞬間!意地汚いオークが奪い去り、給食のおばさんは昼ご飯を食べそこなってしまった。気の毒に思ったドリアードがマンドラゴラを食べさせてあげようと思って差し出したが、その叫び声を聞いた瞬間、給食のおばさんは気を失ってその場に倒れた。そこにスライムスープを食べ損ねたガルムがやってきて、給食のおばさんを捕食した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
給食のおばさんは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
給食のおばさんはコンビニでまゆ墨とアロエヨーグルトを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわ!もうちょっと早く通りかかってたら明日の給食作りに行けなくなるとこだったよ…こわー!」
給食のおばさんは、毎日おいしい給食を作り続けていましたが、全国給食アイデア大賞に入賞して以来おかしなメニューを作る事に躍起になってしまい、お残しが増えた原因が自分であることに微塵も気が付かないまま毎日憤慨していたものの、徐々に落ち着きを取り戻していきおいしい給食が出る県ランキングに貢献できたのよねと誇りに思いながら68歳でこの世を去ったという事です。




