くちぶえ
大木健司はごく普通の小学生である。毎日小学校に行って、毎日宿題をやる、齢10の小学生である。今日も今日とて、小学校帰りに、行きつけのコンビニ前で今日のおやつは何を買おうかなと考えて家路についていた―――のだが。
キュイイイイ!!キキイイイイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。大木健司の魂と、女神が対面している。
「大木健司さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
大木健司(10)
レベル2
称号:転生者
保有スキル:くちぶえ
HP:3
MP:30
「というわけで、いきなり草原?ええと、どうしよ。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が小学生の前に現れた!
「げ!目の前にスライムぅ?!武器も何もないよ!!どーすんの、こまるってば!!」
うろたえる、小学生。
「そうだ、保有スキル試せばいいじゃん!よし!!くちぶえ!!」
なにもおきない。
「ああ、口笛を吹くのか、ふーっ!!ふーっ!!」
にじりにじりと、近寄るスライム。
「ふー!!ぶー!!ぴー!!ぴゅー!!!」
ずるるっちゅるべっちゅずるずりゅべっぶべっ・・・
口で口笛のふりを続けていたが、口笛は一向に吹かれることなく、口を尖らせたまま小学生はスライムに全身を飲み込まれて消化されてしまった。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
小学生は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口に立っていた。コンビニ前で立ち止まった時に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
小学生はコンビニ前で今日のおやつは何を買おうかなと考えて家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょい早く通りかかっていたらひかれてた?危ないねえ、気をつけないと怒られちゃうよ!」
小学生は、中学二年の時から数学好きになり、数学オリンピックに出場したものの一度も結果を残せずふてくされてプログラマーをしていましたが、数字の魅力を語って聞かせて育てた息子が何度も入賞を果たしたのち数学者になったことを誇りに思って85歳の人生を終えたという事です。