手打ちうどん
荒磯剛はごく普通のうどん屋である。毎日うどんを打ち、毎日釜玉うどんを食べる、齢38のうどん屋である。今日も今日とて、ランチ分のうどんを打った後、行きつけのコンビニで髭剃りとイチゴ牛乳を買って店に戻ろうとしていた―――のだが。
キ――――イ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。荒磯剛の魂と、女神が対面している。
「荒磯剛さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
荒磯剛(38)
レベル20
称号:転生者
保有スキル:手打ちうどん
HP:65
MP:6
「というわけで、いきなり草原に放り出されて…どうすんだ、おいおい、ええっ?!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が写真家の前に現れた!
「ぐはっ!スライム?!武器も何もないけど、こいつ倒せるのか?」
うろたえる、うどん屋。
「おお、保有スキルを試してねえな、手打ちうどん?!まさかこいつでうどんを打てと?!」
うばほん!!!
うどん手打ち台とうどん調理セットが現れた!寸胴でお湯が沸き立ち、うどん屋自慢の出汁の香りが草原一面に広がる!打ち粉のされている台の上には、スライムが乗っている!これは…打つしかない!!!
手際よくスライムに粉をまぶし!!延べ棒でスライムを伸ばしてゆく!!美しい水色のうどん生地が出来上がり、うどん屋は手際よく元スライムを切っていく。ふと周りを見渡すと、たくさんのモンスターたちがうどんの出来上がりを待って並んでいた。うどん屋は、麺をゆでながらお客さんに声をかけた。
「もうじき茹るよ!一列に並んで!一人一杯づつね!!」
うどん屋はできたての釜揚げスライムをモンスターたちにふるまった。しかし、うどんの数が足りない!食べることができなかったオークが、怒りのあまりうどん屋を捕食してしまった。こいつを食ったらもううどん作ってもらえなくなるじゃないか!!オークは後ろに並んでいた比較的冷静なオチューにまるかじりされてしまった。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
うどん屋は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
うどん屋はコンビニで髭剃りとイチゴ牛乳を買ってランチ前の店に戻った。店の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「げっ!もうちょっと早く通りかかってたらひかれてたやつだ、ぺちゃんこにはなりたくねえな…。」
うどん屋は、腰を悪くしてしまいコシのないうどんしか打てなくなったことを期に乾麺を使ったメニューの提供に切り替えたところ、こっちのほうが美味いという無情な評価を受けてなんだかとってもやりきれない気持ちになったものの、のれん分けをするくらい人気が出たのでまあこういう人生も良きかなと満足した様子で76歳の時に釜玉うどんを一口食べたあとあの世に旅立ったという事です。
実はうどん打ってないとか(。>д<)切っただけ。




