雑務
長谷川順二はごく普通の教頭である。毎日教頭日誌をつけ、毎日器具倉庫のチェックをする、齢55の教頭である。今日も今日とて、小学校の校門を施錠した後、行きつけのコンビニで三本入りの鉛筆とエクレアを買って帰路についていた―――のだが。
ギイ―――キキイッ!!キキキィィィィイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。長谷川順二の魂と、女神が対面している。
「長谷川順二さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はい。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
長谷川順二(55)
レベル46
称号:転生者
保有スキル:雑務
HP:16
MP:100
「というわけで、いきなり草原に放り出されるとは、ううん、こんなこともあるもんなのか。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が教頭の前に現れた!
「おわっ!スライム?!先週実験教室で作ったやつじゃないか!いや違う!生きてるやつだ!」
うろたえる、教頭。
「ああ、保有スキル使ってみたらどうにかなるんでは?!ええと、雑務?…なんという雑な表現なんだ!!」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「とりあえず駆除!!駆除せねば!!ええと、駆除剤…はないから、そうだ、確か柔らかすぎるスライム作った時は塩を混ぜて固くしたはず、塩!!塩をかけたらよさそう?」
うばほん!!!
教頭の手にパカタの塩が一キロ現れた!教頭は塩を勢いよくつかんで投げつける!!まるでかつての豪快な力士のようだ!!!
じゅわ、じゅっじゅわー
スライムが縮んでいく!!
「よーし、この隙に逃げ出して…ってどこに行ったらいいんだ?!…そうだ、問い合わせてみるか。電話で聞いてみよう、ええと、異世界相談センターに電話、電話…。」
うばほん!!!
教頭の手に電話が現れた!教頭は異世界相談センターに電話した!事細かに今後の対応について問い合わせて確認を取っている教頭の足元に、塩で縮んだスライムからしみ出した猛毒の体液が迫った!電話に夢中になっている教頭はそれに気が付かない!
「ぎゃあああああああああああ!!!」
スライムの猛毒の体液は教頭のはいていたサンダルを溶かし、皮膚に付着し、教頭の命を奪ってしまった。塩で体液を失って小さくなってしまったスライムは、三日後雨を浴びて元の大きさに戻ったらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
教頭は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
教頭はコンビニで三本入りの鉛筆とエクレアを買って帰路についた。自宅近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかっていたら、明日の授業参観に影響出てたかもしれないな、気を付けないと。」
教頭は、校長試験を受けると決めていた年に親の介護が始まりチャンスを逃してがっくりしていましたが、最後に赴任した学校の校長ととても相性が良く精力的に学校業務をこなし、満足いく教員生活を終えた後市の教育機関でアドバイザーとして保護者の皆さんに寄り添い続け89歳で天国に旅立ったそうです。




