真空引き
花岡道元はごく普通のエアコン屋である。毎日エアコンの取り付けをし、毎日エアコンの修理をする、齢46のエアコン屋である。今日も今日とて、新冷媒R32の追加充填を終えた後、行きつけのコンビニでダブルチョコメロンパンと生クリームミルクコーヒーを買った後家路についていた―――のだが。
ギギギギギイッ!!キイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。花岡道元の魂と、女神が対面している。
「花岡道元さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
花岡道元(46)
レベル30
称号:転生者
保有スキル:真空引き
HP:90
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出すという、この非情。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がエアコン屋の前に現れた!
「うっ!スライムっ!武器も何もないんだけど、どうすんだよ、ええとー!!」
うろたえる、エアコン屋。
「そうだ!試してみないと、保有スキル…真空引きってうわあ!エアコン取付道具が全部ここにある!!車ごと転移?すげえな…。」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「ちょ!!コンセントもないのにどうやって真空ポンプ動かすの!!そもそも人体に向けて使っちゃいけないやつ!って!!スライムだからいっか!!よーしスイッチオン!!」
げんげろげろげろげろげろげろ・・・
ド派手な音が鳴り響き、スライムは真空ポンプに吸い込まれて行った!
てれれてっててーーー!!!レベルが上がった!エアコン屋はレベルが32になった!
「おいおい、俺はこの世界でエアコン取り付けなきゃならんのかいな…。」
あてもなく草原を車でさまよい続けたエアコン屋は、やがてガソリンが切れて立ち往生し食べるものも見つからず意識がもうろうとしていたところをカトブレパスに追突され絶命した。車一式はそこに残り、腐蝕が進んだある日回収済みのフロンガスがボンベから漏れ出してオゾン層を破壊したという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
エアコン屋は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
エアコン屋は行きつけのコンビニでダブルチョコメロンパンと生クリームミルクコーヒーを買った後家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかってたらこの車とぶつかってて大爆発だったぞ…。」
エアコン屋は、毎日エアコンを取り付けていたのですがある時新築の家で取り付け位置を間違えてしまい、一軒丸ごと建て替えろという無茶苦茶な要求をされたことで廃業を考え、町の小さな電気屋さんに落ち着いた後は町中の人たちから頼りにされるようになり、67歳で倒れるまで休むことなく誰かの困ったという声に応え続けたのち、70歳の時電気スイッチ取り換え作業中に倒れてそのまま息を引き取ったとのことです。




