ベストショット
御堂幸太郎はごく普通の写真家である。毎日ベストショットを狙い、毎日写真をブログにアップする、齢50の写真家である。今日も今日とて、写真展に顔を出した後、行きつけのコンビニでモバイルバッテリーと甘さ控えめココアを買って家路についていた―――のだが。
キイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。御堂幸太郎の魂と、女神が対面している。
「御堂幸太郎さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
御堂幸太郎(50)
レベル37
称号:転生者
保有スキル:ベストショット
HP:44
MP:20
「というわけで、いきなり草原に放り出されたけど、うわぁ、いい景色だなあ、ここ…!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が写真家の前に現れた!
「おおっ!スライムとは?!武器も何もないけど、捕らえて写真に収めたいな…できるか?」
うろたえる、写真家。
「そうだ、保有スキルを試してみたらいけるかもしれない…ベストショット?カメラを構えてみよう!」
スライムはレンズ越しに見つめられて動くことができない!どうポーズを取っていいのか困っているようだ!!!
「いいね!空の青とスライムの透き通る水色!なんというコラボレーション!グラデーションとはまた違う、彩度の違いが緑色の草の上で映えること!これはいいぞ!まさにベストショットだ!!!」
スライムはめっちゃいい気分になった!!すましてポーズを取る!!どんどん撮るものと撮られるものの意識が重なり合って最高の画が記録されてゆく!!!
ぶに。
写真を撮るのに夢中になっていた写真家は何かの尻尾を踏んだ。…野良グリフォンだ!!!写真家は尻尾を踏んだことさえ気が付かないまま、グリフォンにまるかじりされた。スライムは、自分の写真がもらえなかったことに本気で涙を流したという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
写真家は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
写真家はコンビニでモバイルバッテリーと甘さ控えめココアを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「おおっ!もう少し早く通りかかってたらひかれてたよ、このカメラに悲惨な状況は写したくないなあ…。」
写真家は、万人が万人美しいと思う素晴らしい写真を撮り続け讃えられましたが、最愛の妻が病に倒れてからは万人が万人心をうたれるような愛溢れる写真を撮るようになり、90歳でこの世を去る頃には「人が生きていくうちに一度は見たい写真集Vol.12」が発売され、世界的ベストセラーとなったという事です。




