ねえねえそういえばさ、聞いた?
山是喜久子はごく普通のおしゃべりである。毎日独り言を言って、毎日誰かととりとめもない話をする、齢38のおしゃべりである。今日も今日とて、3軒隣のおばちゃんとゴミ出しついでに立ち話をした後、行きつけのコンビニではちみつレモンキャンデーと飲むヨーグルトを買って家路についていた―――のだが。
キイッイイ!!キッイィイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。山是喜久子の魂と、女神が対面している。
「山是喜久子さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
山是喜久子(38)
レベル11
称号:転生者
保有スキル:ねえねえそういえばさ、聞いた?
HP:44
MP:12
「というわけで、いきなり草原に放り出すのはさあ、本当に無責任極まりないっていうかさあ!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がおしゃべりの前に現れた!
「ええー!スライムってやつじゃ?!武器も何もないのに、これ、戦わないと駄目な感じ?」
うろたえる、おしゃべり。
「ええっと、まず、保有スキルを試してみないとだめなんじゃない?ねえねえそういえばさ、聞いた?ってなに!!!スライムなんて何も聞いたことないはずでしょ?!ああそうか、全部話していいってこと?!」
スライムは何を話されるのか、ドキドキしている!
「あのね!上五反町の杉下さん!宝くじ当たってBMM買ったんだって!!でさあ、息子が借りて乗ってたらヤンキーに借りパクされそうになっちゃって警察呼んでね!!そうこうしてたら車帰ってきたんだけどその車がパトカーに突っ込んじゃって責任のなすりつけ合いがハンパなくてこっちにまで飛んできちゃって大変だったのよね、そもそもさ、なんで宝くじ当たったら人ってすぐ車買っちゃうんだろうね、あたしだったらおいしいもん食べて家のローン払ってさあって、そういえば杉下さんとこってば家のローンないって言ってたわ、おっかしいよね、なんで金持ちに宝くじ当たって貧乏人に当たんないんだかさあ、なんかさあもうどうしてこんなに人って裕福の違いがあるんだろうね、私なんか慎ましやかに暮らしてるのに全然お金たまんないし毎日楽しみないし、あーあ、つまんない人生なんだなってホントしみじみ思うわ、でもさ、こうやって噂してるのは意外と楽しい感じ?」
スライムはあまりの内容のくだらなさにげっそりした!
「ねえねえ、そういえばさ、聞いた?今度の町内会長、近藤さんなんだって!あの人さあ、人がいいから絶対やらされると思ってたのよね、でもはっきり言って八方美人過ぎるじゃない、どこ行っても良いですねしか言わなくってさ、正直ちょっとむかつくっていうかさ!あんなんで意見なんて出せるのかしらね、私だったらはっきり言っちゃうんだけどさ、良い人って言えないでしょぉ、なんていうか流されるのが見て取れるっていうか、もっと気が強くなんないとだめだよね?」
スライムはもうこの場から立ち去ろうとした!!しかしおしゃべりは話をやめようとしない!!
「ねえねえ、そういえばさ、聞いてもいい?なんであたしここにいきなり呼び出されたの?この世界ってなんなの?どうしてあんたぷよぷよしてんの?ねえねえ、あんた耳とか目とかあんの、口は?うんとかすんとか言ってみたらどうなのよ、ねえねえ!!」
うっせえな!!スライムは腹立たしくなったのでぱくりとおしゃべりをひとのみした。奥歯に物が挟まったようだが、別に話す相手もいないのでいいかと思い直してスライムは草原の彼方へと消えた。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
おしゃべりは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
おしゃべりはコンビニではちみつレモンキャンデーと飲むヨーグルトを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわあ!もうちょっと早く通りかかってたら大事故だよ!!アッぶないなあ、これはみんなによく言っておかないとだめだね!!」
おしゃべりは、毎日毎日近所の人と話し込んでいましたが、ある時顎関節症になってしまい3日ほど静かな生活を送ることとなり家族がやれやれと思ったのもつかの間、すぐに怒涛のおしゃべりが復活し、結局静かな日々が訪れたのは68歳で朝起きてこなかったので見に行ったらすでにあの世に旅立ったあとだった日以降だったと語り継がれたとのことです。




