几帳面
佐々木ひろ子はごく普通の細かい人である。毎日四角い部屋の隅を掃除機の細口ノズルで吸い取り、毎日お札の向きを同じ方向にそろえる、齢30の細かい人である。今日も今日とて、ストックしているカップ麺の向きをすべて同じ方向にそろえた後、行きつけのコンビニでコンビニ限定サイズのペットボトルを二本買って家路についていた―――のだが。
キイッ!!キッイィイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。佐々木ひろ子の魂と、女神が対面している。
「佐々木ひろ子さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
佐々木ひろ子(30)
レベル5
称号:転生者
保有スキル:几帳面
HP:13
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出すんですね、なんという、横暴な。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が細かい人の前に現れた!
「えっ、スライム?!武器も何もないんだよ?!どうするのっ?!」
うろたえる、細かい人。
「ああ!保有スキルを試してみよう、ええと、几帳面?何これ、性格じゃないの!!」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「ええっと!あなたね!そんなに丸っこいのは、許せないわ?!何適当な形で存在しているわけ?!角がないのよ!!直角!!きっちり正方形になったらどうなの!!!」
うばほん!!!
スライムは正方形になった!微塵も動くことができない!細かい人は逃げ出した!
細かい人は、二時間ほど歩いて人里へとたどり着いた。ところが、この人里は恐ろしく不衛生で、細かい人は虫の浮かんだお茶を出されて逃げ出した。逃げ出した後、足を滑らせぬかるみにはまり、その汚れを落とそうと川に入ったところ深みにはまってしまい、絶命した。細かい人が川に入るときに川べりに畳んで置いておいた衣服は、不衛生な人たちが一度も洗濯をすることなく着つぶしたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
細かい人は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
細かい人はコンビニでコンビニ限定サイズのペットボトルを二本を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あら、もう少し早く通りかかってたら大変なことになっていたのでは?気を付けないといけないわね。」
細かい人は、常に気を張って日々を過ごすうちにいつしか笑顔を忘れてしまったのですが、たまたま出会った子猫をお迎えしたことで程よい汚れの中で清潔に過ごす楽しみを知るようになり、笑顔の溢れる家庭を築いたのち、ほどよくホコリの舞う自宅で67歳の時いきなり倒れてそのまま帰らぬ人となったとのことです。




