タイトルマスター
炎川裕三はごく普通の小説家である。毎日超大作の構想を練り、毎日推敲をする、齢27の小説家である。今日も今日とて、行きつけのコンビニでハニーチュロスとドリップコーヒーを買って家路についていた―――のだが。
キュキュキキイッ!!キキキィィイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。炎川裕三の魂と、女神が対面している。
「炎川裕三さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
炎川裕三(27)
レベル4
称号:転生者
保有スキル:タイトルマスター
HP:19
MP:48
「というわけで、いきなり草原に放り出されちゃうとか…はあ…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が小説家の前に現れた!
「おっと?!スライムぅ?!武器も何もないんだけど、導入部分のこの無鉄砲さはどうなの…。」
うろたえる、小説家。
「まずは…保有スキル使ってみるべきだよね…タイトルマスター?なんちゅー適当なネーミングなの…まるでこう、使い方の読めない、語彙力の足りない人がひねり出したようなやっつけ感?…まあいいや。」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「スライム大戦~僕の目の前にプルプルが現れたので全力でやっつけようと思いますでも怖いです助けて~」
うばほん!!!
何やら気の弱そうなそれでいてツッコミには自信がありげな青年が現れた!青年は足元の石ころを拾って投げた!
ズガガガガガガ!!
急所に当たったようだ!!スライムは絶命した!
てれれてっててーーー!!!レベルが上がった!小説家はレベルが20になった!
「はあ!?なんでっ!?やっつけたの、俺っ!!」
「そりゃああんたは召喚獣みたいなもんだからさ…仕方ないと思うよ…。」
呼び出された青年はたいそうお怒りになって足元の石を小説家に投げつけた!ズガガガガガガ!!急所に当たったようだ!!小説家は絶命した!しかし青年のレベルは上がらず、どこからか現れた筋骨隆々の神父に連れられてどこかに行ってしまった。辺りに悲痛な叫びがこだましたようだが、それを気に掛けるものはどこにもいなかったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
小説家は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
小説家はコンビニでハニーチュロスとドリップコーヒーを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたらきっと大変なことになってた気がする、うん、何もなくてよかった。」
小説家は、八度目に名乗ったPNの時にふと思い立って純愛ものを書いたところ日本中の女子から涙を根こそぎ絞り出させることとなり愛の伝道師の名を恣にしましたが、ふと気恥ずかしさが募って四番目につけたPNに戻したとたんなぜかコメンテーターとして人気が出てしまい、顔が割れて落ち着いた生活ができなくなったものの、発表済みの作品が注目されて映画化されたのを見届けたのち、80歳でペンを握りしめながらテーブルに突っ伏してその生涯を終えたという事です。
なお、生涯で使ったPNは12もあったそうです。




