ミラクルクッキング
近藤ジュンはごく普通の調理師である。毎日メニューを考え、毎日美味いものを提供する、齢33の調理師である。今日も今日とて、仕事を終えた後、行きつけのコンビニで白ワインとモッツァレラチーズを買って家路についていた―――のだが。
キキキギュイッ!!ギギィキキッキイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。近藤ジュンの魂と、女神が対面している。
「近藤ジュンさん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
近藤ジュン(33)
レベル7
称号:転生者
保有スキル:ミラクルクッキング
HP:16
MP:36
「というわけで、いきなり草原かあ…広い空だ…久しぶりだな…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が調理師の前に現れた!
「おわっ!スライムでたっ!武器も何もないのに何をどうしてこのピンチを乗り越えたらっ?!」
うろたえる、調理師。
「そうか、試してみたらいいじゃんね、保有スキル!!ミラクルクッキング?」
うばほん!!!
キッチンスタジオが現れた!ここは美食への追求に尽力でき、かつそれを生み出すに相応しい料理人しか利用ができない、神秘の空間である!器具はすべてそろっている!材料は…目の前のスライムだ!!
「私に…このスライムを、調理せよと…?…面白い!やってやろうじゃん!!」
じゃきーん!調理師は二本の出刃包丁を携え、スパンスパンとスライムをカットした。大量のスライム片は、まず塩もみされ、一回り小さくなった。さらに酒に漬け込んで、一回り小さくなり、湯がいた後はさらに小さくなった。目の前には、寸胴三つ分の、アク抜きしたスライム。
「三種類の、何かを…私は!!生み出すっ!!!」
一つはポタージュスープ。
一つは甘辛く煮て串刺しに。
一つは素材の味を生かして、砂糖漬けに。
美味そうなにおいが、草原いっぱいに広がったので、原住民がわんさか寄ってきた。
「並んで!!一人一杯づつ!一種類づつ配りますから!!」
原住民は大喜びで並んで、すべてを食らいつくした。この原材料は何かと聞かれたので、スライムであると調理師が答えた途端、原住民たちは牙をむいた。この辺りでは、魔物を食べることは禁忌とされていたのである!調理師は、怒り狂った原住民の長に撲殺された。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
調理師は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
調理師はコンビニで白ワインとモッツァレラチーズを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたら、ひかれてたわ。良かった、怖い目に合わなくて。」
調理師は、毎日お店ではおいしい料理を作っていたものの自宅では意外とだらしない食材管理をしていたのが幸いして食中毒で入院したのをきっかけに、食材に対する今までの自分の態度を心から反省して無駄のない食材調達を心掛けるようになり散財が減った結果小金がたまってきたので、軽食販売ワゴンを始めてみたところ爆当たりして59歳でヘルニアになるまで毎日10時間働いていたのですが、入院してからは怠ける癖がついてしまって67歳で人生を終えるころには主食がカップ麺になっていたそうです。




