かゆいとこないですかぁ~
栗花落洋子はごく普通の美容師である。毎日シャンプーをし、毎日ヘアカットをする、齢31の美容師である。今日も今日とて、行きつけのコンビニでハンドクリームとメロンパンを買って家路についていた―――のだが。
キュギキキイッ!!キキキィィィィイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。栗花落洋子の魂と、女神が対面している。
「栗花落洋子さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
栗花落洋子(31)
レベル8
称号:転生者
保有スキル:かゆいとこないですかぁ~
HP:18
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出されてさあ…私結構、気の毒だよね…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が美容師の前に現れた!
「ええっ?!スライムじゃないの?!武器も何もないのになによぉ、これぇ!!」
うろたえる、美容師。
「そうだ!!!保有スキル使えるんじゃないの、かゆいとこないですかぁ~って!!毛が…ない!!」
スライムは、プルプルしている!触手が伸びて、スライムの頭のてっぺんをつんつんしている!どうやら頭のてっぺんがかゆいようだ!!
「ああ、ここがかゆいんですね、はい、ごしごし…。」
スライムは恍惚の表情をしているのだが、美容師にはそれがわからない!
「もっとかきますか?ちょっと強めにかきますね…。」
スライムはちょっと痛いのでやめてほしくなって、険しい顔をしているのだが美容師にはそれがわからない!スライムは、震え始めた!
「あれ、もっとかけって言ってるのかな。よし、思いっきり…!!」
がりっ!!!スライムは痛みで我を忘れて、一気に一飲みで美容師を捕食した。スライムの頭のてっぺんは、しばらくポコッと腫れあがって、どこかのゲームに出てくる弱っちい奴と似た感じになったがそれも二日で完治し、今も草原でぶよぶよしているという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
美容師は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
美容師はコンビニでハンドクリームとメロンパンを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたら…。こわぁ。」
美容師は、ハイセンスな都会のヘアサロンでブイブイ言わせていたのですが田舎で小ぢんまり美容室をやっていた両親が引退することになりその店を継ぐことを決め、一日二人だけ受け付ける丁寧すぎるヘアルームを開いたところ瞬く間に人気となって常に仕事に追われる毎日を送り、70歳で入院する前日まで予約が入っていたほどだったのですがそのまま病院で人生を終えてしまったので、予約を取るために電話をかけてきたお客さんを長らく悲しませたという事です。




