異議あり!
太田敬はごく普通の弁護士である。毎日契約書をチェックし、毎日書類の穴を埋める、齢52の弁護士である。今日も今日とて、仕事を終えた後、行きつけのコンビニで板チョコとウーロン茶を買って家路についていた―――のだが。
キキキキイッ!!ギギィキキッキイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。太田敬の魂と、女神が対面している。
「太田敬さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
太田敬(52)
レベル16
称号:転生者
保有スキル:異議あり!
HP:29
MP:403
「というわけで、いきなり草原に飛ばされたと…困ったことになったな…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が弁護士の前に現れた!
「おっと!スライムというやつか!武器も何もないのにどう戦えというのかね。」
うろたえる、弁護士。
「ああ、試してみるべきだね、保有スキルを。フム、異議あり?なんだ、ゲームのやりすぎだろう、これは。こんなこと言う奴今まで見たことないぞ…。」
べよんべよん!!
水色のぶよぶよが弁護士に迫る!!
「異議あり?そもそも会話が成り立たないのに異議を唱える何も。それともなんだね、このスライムはわたしに何か訴えているとでもいうのかね。依頼者の意向を聞かずして何をどう弁護しろというのかね。そもそも依頼者とはだれを指すのかね。私は誰を弁護したらいいのかね。そもそも書類を用意する準備もできていないじゃないか。不備が多すぎる、実に不愉快だ。」
スライムは茫然としている!
「刑事事件か民事事件か企業問題か国際問題か!そもそもこんなぶよぶよした物体に依頼したい案件などあるはずもないだろう!まったく!失礼する!!!」
カッチ――――――――――ン!!
スライムは弁護士の失礼な物言いに腹を立てた!スライムは去り行く弁護士を遠慮なく頭から捕食した。もぐもぐしていたらがじっと音がしたので吐き出してみると、金色に輝く丸い物体だった。スライムはそれを気に入り、口元横に常につけて草原を闊歩するようになったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
弁護士は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
弁護士はコンビニで板チョコとウーロン茶を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかってたら、ひかれてたのでは?この状況ではまず運転手は過失を逃れることはできまい。」
弁護士は、民事事件を中心に活躍していましたがある時親友が凶悪事件に巻き込まれてしまい、なんとしてでも助けるぞという気持ちで弁護を引き受け長引く裁判の末に無罪を勝ち取り、その物語は多くの人々に感動を与え書籍化されベストセラーにまでなったのですが、寄る年波に勝てず頑固おやじ化して件の友は敵となってしまい、仲違いをしたまま80歳でこの世を去ったという事です。




