王者は黙して語らず
アレスはごく普通のライオンである。毎日餌をもらって、毎日写真に撮られる、齢16のライオンである。今日も今日とて、飼育員のくれたエサを食べた後、日当たりのいい厩舎の高台で高みの見物をしていた―――のだが。
ギギッイイ!!キッイィイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。アレスの魂と、女神が対面している。
「アレスさん、あなたは気の毒ですがライオン生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「…。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
アレス(16)
レベル10
称号:転生ライオン
保有スキル:王者は黙して語らず
HP:25
MP:15
「…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がライオンの前に現れた!
「…。」
ライオンは立ち上がることなく、王者の風格を漂わせている!
「…。」
スライムは、おびえている!
「…。」
スライムは逃げ出した!
ライオンはただ、草原で王者の風格を漂わせていたが、そのうち腹が減って辺りをうろつき始めた。しかしここは異世界。獲物が見つからず、ライオンは飢餓のため動くことができなくなった。弱り切ったライオンをスライムが見つけたが、風格が漂って捕食することができない。ライオンが絶命した瞬間、王者の風格はなくなり、スライムはすかさず捕食した。
「ぅがぅうう…」
ライオンは時間を巻き戻されて、日当たりのいい厩舎の高台で高みの見物をしていた。高台にのぼる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
ライオンが日当たりのいい厩舎の高台で高みの見物をしていると、厩舎の奥に走る高速道路上でパトカーのサイレンが鳴り響き始めた。車の暴走を止めるのに、成功したようだ。
「ぅがぉぉおおおおおお!!」
ライオンは、動物園内で毎日のんびり過ごしている様をたくさんの人たちに見てもらいながら21歳で寿命を迎えましたが、今でも園内に動画が流され、ぬいぐるみも大中小と売られており、たまに品切れるほどの人気を誇っているそうです。




