歯科検診
大前研一はごく普通の歯科医である。毎日歯を磨き、毎日歯を削る、齢32の歯科医である。今日も今日とて、遅くなった昼ご飯を買いに行こうと、行きつけのコンビニでダブルハンバーグ弁当と減肥茶を買って歯科医院に戻ろうとしていた―――のだが。
キュギキキキッ!!キキキィィィィイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。大前研一の魂と、女神が対面している。
「大前研一さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
大前研一(32)
レベル8
称号:転生者
保有スキル:歯科検診
HP:18
MP:18
「というわけで、いきなり草原に放り出されてるし。こういう事ってあるんだな…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が歯科医の前に現れた!
「おお、スライム?!武器も何もないけど、この場合は、戦わざるを、えない?!」
うろたえる、歯科医。
「そうだ、保有スキル使えるんじゃないの、歯科検診…?ちょっと待て、歯あるの、この人…。」
うばほん!!!
歯科医の手に舌圧子、深針、ミラーが現れた!ラテックスフリーグローブが両手に装着された!
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「ちょ!!こんなちっさい舌圧子でどう戦えと?!ううっ!!でもやるしかない!お口!!お口開けてください!!」
スライムはおずおずと口を開けた!少し怖がっているようだ!!歯科医はスライムの口の中をのぞき込んだ!
「見るだけですよ、怖くないですよー、おや、きれいな歯並びですね……むむっ!!これは!!。二重歯列では?乳歯を抜かないと咬み合わせが心配なことに…ちょっと待って、何だこの歯石は!!あなたね、歯磨きしてませんね?!ちょっと深さ見てみましょう…クリックプローブ!!」
歯科医の手にクリックプローブが現れた!歯科医は歯周ポケットを確認し始めた!
チック―――ン!!腫れている歯肉にプロープが突き刺さる!スライムは、見るだけって言ったのにー!!と憤慨して、歯科医を頭からがぶりと捕食した。ガジガジ食べていたら、歯が一本抜けたようだが、スライムは気にせず草原の向こう側へと消えた。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
歯科医は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
歯科医はコンビニでダブルハンバーグ弁当と減肥茶を買った後、歯科医院へと戻っていった。途中の交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたら事故に巻き込まれてたんじゃ?怖いなあ…。」
歯科医は、丁寧で優しい治療が評判を呼んで大盛況の歯科医院を切り盛りし続け、78歳になった時に手の震えが始まって限界を感じてタービンを置いたものの、時間を見つけては待合室に出向いて歯の話をしていましたが、88歳になったある日小学校の歯科検診に出かけた息子を見送った後意識を失いそのまま目を覚ますことなく天国へと旅立ったとのことです。
なお、歯は28本すべて残っていたそうです。




