歌姫
林春奈はごく普通の歌手である。毎日レッスンに行って、毎日うがいを欠かさない、齢28の歌手である。今日も今日とて、新曲のレコーディング打ち合わせの後、行きつけのコンビニではちみつ飴と温かいお茶を買って家路についていた―――のだが。
ギギッイイ!!キッイィイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。林春奈の魂と、女神が対面している。
「林春奈さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
林春奈(28)
レベル14
称号:転生者
保有スキル:歌姫
HP:4
MP:450
「というわけで、いきなり草原に放り出されて…すごい、広ーい!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が歌姫の前に現れた!
「え?!スライム?!武器も何もない!」
うろたえる、歌手。
「あっ、保有スキルを試してみないと!ええと、歌姫?歌うたえばいいのかな?」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「時よ♪とまれ♪今ここに♪伝説が始まる♪」
スライムの時が止まった!
「私を連れ出すのは♪イルカに乗ったイケメン♪迎えに来てね♪」
ばっしゃぁあああん!イルカに乗ったイケメンが、きらりと歯を輝かせながら歌手に手を伸ばす!!歌手はその手を取って、草原の彼方へと消えた。歌手は、歌を歌うたびに様々なもの、人を呼びだしていつしか一国の女王となったが、愛の歌ばかり歌っていたので歌手を愛するヤンデレイケメンが溢れるようになってしまい、そのうちの一人に刺されて絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
歌手は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
歌手はコンビニではちみつ飴と温かいお茶を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわ、ちょっと早く通りかかってたら命がなかったかも、こわ…。」
歌手は、その歌声でたくさんの人たちに前を向く勇気を与え、上を目指す力を与え、いつしか神扱いされるようになってしまい、ただの人に戻りたいと願うようになって引退しましたが、礼儀を知らない恥知らずの無遠慮な突撃に耐えかねて海外へと移住したのち鎮魂曲を歌うようになり、89歳でこの世を去るときはたくさんの救われた魂がお迎えに来ていたとのことです。




