パ、パ、パン屋さんでお買い物
沢渡紀子はごく普通のパン職人である。毎日パンをこね、毎日パンを焼く、齢25のパン職人である。今日も今日とて、仕事を終えた後、行きつけのコンビニで梅干しのおにぎりと緑茶を買って家路についていた―――のだが。
キキキキイッ!!ギギィキキッキイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。沢渡紀子の魂と、女神が対面している。
「沢渡紀子さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
沢渡紀子(25)
レベル4
称号:転生者
保有スキル:パ、パ、パン屋さんでお買い物
HP:20
MP:20
「というわけで、いきなり草原?!どんだけやっつけ仕事っ!!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がパン職人の前に現れた!
「うーわ!スライムかよっ!武器も何もないのに戦えるわけ、ないっ!!!」
うろたえる、パン職人。
「ああっと、試してみないと、保有スキル!!パ、パ、パン屋さんでお買い物?」
べよんべよん!!
水色のぶよぶよがパン職人に迫る!!
「クリームパンにコッペパン!あんパンにハムサンド?」
うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!
スライムは体の一部を引きちぎられながら、パンに変化している!!
「わかった!パンの種類を言ったらパンにすることができるんだ、よーし!!食パン!フランスパン!ブール!デニッシュ!フランクロール!チョココロネ!猫パン!ヨモギパン!チーズ蒸しパン!ベーコンエピ!フレンチトースト!リーフパイ!テーブルロール!ポンデケージョ!カレーパンっ!」
うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!うばほん!!!
てれれてっててーーー!!!レベルが上がった!パン職人はレベルが8になった!
パン職人は、大喜びで自慢のパンを食べた。さすがにうまい!しかし、所詮はスライムが変化したもの。毒が含まれていたので、パン職人は体がしびれて気を失った。そこに飢えたオークの群れが通りかかり、パン職人は捕食されてしまった。パンを食べたオークは命を落とし、群れは半数まで数を減らした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
パン職人は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
パン職人はコンビニで梅干しのおにぎりと緑茶を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたら、ひかれてたよねきっと!良かった、ひかれなくて。怖いなあ…。」
パン職人は、毎日いろんな創作パンを作って人気を呼んでいましたが、近所に大手パン工場がオープンして店をたたまざるを得なくなってしまいずいぶん悲しみに包まれたものの、かねてから付き合いのあった日本料理店店長と結婚し、店の隅でプチパン販売を始めたのがきっかけで和風パンの始祖神とまで呼ばれるようになり、80歳でこの世を去るまでに700を超すレシピを残したとのことです。




