家事全般
池下美知恵はごく普通の主婦である。毎日スーパーに買い物に行って、毎日洗濯物を干す、齢33の主婦である。今日も今日とて、スーパーのつめ放題を散々詰めてきた後、行きつけのコンビニでAMEBONのギフトカードとチロレチョコを買って家路についていた―――のだが。
ギギッイイ!!キッイィイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。池下美知恵の魂と、女神が対面している。
「池下美知恵さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
池下美知恵(30)
レベル5
称号:転生者
保有スキル:家事全般
HP:10
MP:15
「というわけで、いきなり草原に放り出されちゃったんだけど、どうしたら…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がけちの前に現れた!
「きゃあ、スライム!武器も何もないのに!私こういうのダメなのにい!!」
うろたえる、主婦。
「そうだ、保有スキルを試してみたら助かるかも?!ええと、家事全般?なにこれ!!」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「ええと、ああそうだ!布団たたき!!こいつを布団だと思って叩いたらっ!!」
うばほん!!!
でっかい布団たたきが出てきた!!主婦はそれを使ってスライムを叩き始めた!ばすんばすん!!スライムから、ホコリが舞う!!かなり汚れているようだ!!
「うっわ!!何この汚いの!!もういっそ洗濯した方がいいんじゃないの?洗濯機!」
うばほん!!!
洗濯板と盥とウラマル石鹸が出てきた!たらいには水が入っている!
「えっ、何これ、私洗濯機でしか洗えないよ…。どうすんのこれ…?」
洗濯道具の使い方がわからない主婦に苛立ちを覚えたスライムは、洗濯セットもろとも捕食した。捕食後のスライムは、時折シャボン玉をまき散らしながら各地を巡ったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
主婦は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
主婦はコンビニでAMEBONのギフトカードとチロレチョコを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「ええ、うっそ、ちょっと早く通りかかってたらぶつかってたよきっと!怖いなあ、気を付けないとねえ。」
主婦は、毎日家事をこなして忙しく過ごしていましたが、54歳の時に自損事故でけがをして入院して以来手を抜くことに快感を覚え始め、60歳になる頃にはすっかりごみ屋敷化した自宅を娘に咎められるようになり、結局片付くことなく71歳でこの世を去ったとのことです。
ごみ屋敷の清掃料金は387500円だったそうです。




