MAP
木戸寛太はごく普通の方向音痴である。毎日道を間違え、毎日ゴーグルマップを確認する、齢26の方向音痴である。今日も今日とて、出張先のホテルへの帰り道を間違えた後、通りがかりのコンビニでピルプルとあんぱんを買って方向転換をしようとしていた―――のだが。
キュギキキキッ!!キキキィィィィイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。木戸寛太の魂と、女神が対面している。
「木戸寛太さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
木戸寛太(26)
レベル5
称号:転生者
保有スキル:MAP
HP:3
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出されるのか、どこに行けばいいのさ、これ…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が方向音痴の前に現れた!
「これは、スライム?武器も何もないのに、どうすんの。」
うろたえる、方向音痴。
「そうだ、保有スキル使えるんじゃないの、MAP…?。」
うばほん!!!
目の前にでっかいMAPが現れた!!
「おわ!!なんだこの地図は…ああ、目の前の赤いのが敵で…緑色が安全地帯?そんなのあるのか!!あ、近い、走っていったら逃げられるんじゃないのこれ!よし、緑色の所に行こう!!ええと…目の前に赤いのがいるから、向かって右に行けば緑色の安全地帯が出てくるはず、よし急げ!!」
方向音痴は、襲いかかろうとするスライムをかわして、右斜め後方へと走り出した!
「あれ、なんで!!緑色のが離れたぞ?!ちょっと待った、このバッテンは何だ?…うわあ!!」
ずぼっ!!
方向音痴は落とし穴に落ちた!!そこにスライムがのしかかって、頭から方向音痴を捕食した。捕食した後、スライムは落とし穴から抜け出して、あたりを散策していたが一際草の生い茂る場所に差し掛かった時に体の一部がジュっと消滅した。スライムはかけた体を引きずりながら、どこか遠くへと消えてしまった。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
方向音痴は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
方向音痴はコンビニでピルプルとあんぱんを買った後、迷いながらも出張先のホテルに帰ることができた。途中のコンビニ前で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたら挟まれてたんじゃ…。こわっ。」
方向音痴はそれから何度も何度も道を間違えて何度も何度も遅刻をして怒られはしたものの、人生という道を間違えることなく82歳でこの世を去るまで、真面目に勤勉に自分のやるべきことをし、尊敬のまなざしを受け続けたという事です。




