筋肉は世界を救う
小川香澄はごく普通の腹筋女子である。毎日腹筋を300回こなし、毎日シックスパックを確認する、齢38の腹筋女子である。今日も今日とて、10キロのスロージョグを終えた後、行きつけのコンビニでプロテインバーと抹茶味の豆乳を買って家路についていた―――のだが。
キキキキイッ!!ギギィキキッキイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。小川香澄の魂と、女神が対面している。
「小川香澄さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
小川香澄(38)
レベル7
称号:転生者
保有スキル:筋肉は世界を救う
HP:87
MP:5
「というわけで、いきなり草原に放り出すのは勘弁してよ!!もう!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が腹筋女子の前に現れた!
「うわ!スライム初めて見た!武器も何もないのに戦えるの、私っ…!!」
うろたえる、腹筋女子。
「そっか、試してないな、保有スキル!!筋肉は世界を救う?何それ!!」
べよんべよん!!
水色のぶよぶよが腹筋女子に迫る!!
「みろやこの腹筋―!!ぽっこぽこやぞ!!六個に割れとるやろ―――!!!」
スライムはたじろいでいる!!
「はい!膝を曲げて!!クランチ!次は膝をそろえて足を下げてリバースクランチ!サイドクランチも忘れずに!!」
スライムは腹筋女子をまねて腹筋をしている!!スライムの腹筋が6つに割れ始めた!!
「いいね!!腹直筋にばっちり効いてるよ!!じゃあ次はV字腹筋ね!!はい手と足を延ばして―!つま先とタッチ!ヘタレるな!!気力でタッチする!!はい!!」
スライムは必死に筋トレについていっている!!いつしか、腹筋女子とスライムの間に、友情が芽生えた!
「はい!お疲れさま!今日はここまでね!」
腹筋女子が、グータッチを要求した。スライムは大喜びでグータッチを返したのだが。
「ぎゃあああああああああああ!!!!」
スライムの毒が、腹筋女子のこぶしから全身に回ってしまい、やがて絶命した。スライムは、師匠の亡骸を捕食した。スライムの腹は、六つに割れたままだったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
腹筋女子は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
腹筋女子はコンビニでプロテインバーと抹茶味の豆乳を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうすこおし早く通りかかってたら、ひかれてたよ絶対、ああ、怖いね、こんなんじゃ鍛えたところで意味なんか…あるに決まってんじゃん!!」
腹筋女子は、毎日こなす腹筋の回数を増やし過ぎてしまいぎっくり腰になった後整形外科の先生と仲良くなって恋に落ち、家庭に入った後も腹筋を無理なく続けてシックスパックを維持し続けていたのですが、帝王切開で出産して以降は腹筋の日課を忘れがちになり、45になる頃にはすっかりおなかには脂肪が蓄えられるようになってしまい、腹筋を一度もできないまま67歳の生涯を閉じたという事です。




