言霊
藤本佳南はごく普通の霊能者である。毎日浮遊霊に遭遇して、毎日背後霊を見送る、齢47の霊能者である。今日も今日とて、地縛霊の横をスルーした後、行きつけのコンビニで食塩と日本酒を買って家路についていた―――のだが。
ギギギキイ!!キイイィイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。藤本佳南の魂と、女神が対面している。
「藤本佳南さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
藤本佳南(47)
レベル75
称号:転生者
保有スキル:言霊
HP:42
MP:89
「というわけで、いきなり草原に放り出されてしまったと、ふうむ、どうしてみましょうかね。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が霊能者の前に現れた!
「ああ、スライム…ね。武器も何もないけど、戦うべきなのかな、話通じる?」
うろたえない、霊能者。
「言霊ねえ…話、通じる?答えてくださいな。」
スライムは、ただふるえている。
「うーん、言葉が発声できない感じか?じゃあ、意思が伝わるはずだから、あなたの思いを教えてください。」
―――数億年の間、ただ捕食を続けている。捕食するべき存在である。捕食せねばならない宿命。終わることがない存在。間もなく、捕食を開始する。そしてまた、捕食は続く。捕食をやめるすべがない。
「ならば、私が終わらせてあげる。私を捕食することで、捕食者は無に帰る。捕食されるものは意識を失い天に帰る。捕食するものの願いは叶う。捕食される…」
途中で霊能者は魔力枯渇で倒れた。スライムは霊能者を捕食した。その後、スライムはふわりと消えた。この世界からスライムがいなくなり、原住民たちは人口爆発を起こしたのち戦争を引き起こして国は滅亡したという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
霊能者は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに少し、気付いたようだ。
霊能者はコンビニで食塩と日本酒を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかってたら…そうだね、うん…いろいろ、あったよね、うん。」
霊能者は、ごく普通に過ごしてごく普通の毎日を送り、ごく普通に入院して、ごく普通に病院で息を引き取りましたが、今でも霊能者の自宅付近でその姿を見かけることがあるそうです。




