食べ放題
加山美緒ははごく普通の食いしん坊である。毎日デカ盛りを食べ、毎日食べ放題の記事を探す、齢24の食いしん坊である。今日も今日とて、ランチバイキング帰りに、行きつけのコンビニでペロングギガMAXと2リットルのペットボトルを買って家路についていた―――のだが。
キュイキキキイ!!キキキィィィィイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。加山美緒の魂と、女神が対面している。
「加山美緒さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
加山美緒(24)
レベル8
称号:転生者
保有スキル:食べ放題
HP:87
MP:12
「というわけで、いきなり草原に放り出されちゃったよ、ええ、どうしようかな…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が食いしん坊の前に現れた!
「わあ!目の前にスライム?!武器も何もないけど、こいつどうしようか、うーん…?」
うろたえる、食いしん坊。
「そうだ、保有スキルを試してないよね!!えっと!!食べ放題!」
うばほん!!!
食いしん坊の手に、ナイフとフォークが現れた!
「ええっ?!何これ!!ひょっとしてこいつを食べろと、言っているの?!」
スライムはプルプル震えている!
「え、ちょっと食べてみようか…。」
サクッ!!スライムは端っこをちょっとだけカットされた!1のダメージ!スライムは捕食される恐怖で動けない!食いしん坊は一口スライムを食べた!
「え!!なにこれえ…!!!もったりしていてそれでいてさわやかなのど越し、口の中に広がる香りはまさに青空のような爽快感、ミントでもソーダでもない、新たな感動のこの味、いったい何!!ナイフとフォークがっ!!とまらんっ!!!」
食いしん坊は次から次へとスライムを捕食した。あと二口というところで、食いしん坊はナイフとフォークをしまった。
「こんなおいしいもの、明日も食べたい!これは明日に取っておこう!げふー!!」
二口分残されたスライムは、激怒した。明日になったら腐ってしまう!怒りに狂ったスライムは、最後の力を振り絞って食いしん坊の顔面にはり付き息を止めて抹殺した。スライムは、捕食された部分を食いしん坊を捕食することで復活させることができ、満足して地平線の向こうへと消えた。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
食いしん坊は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった時に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
食いしん坊はコンビニでペロングギガMAXと2リットルのペットボトルを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと、早く通りかかってたらひかれてたよねぇ…怖い怖い、気を付けなきゃ。」
食いしん坊は、どれだけ食べても太らないのをいいことに毎日がつがつ食べていたのですが、恋した男性が一生懸命作ったマグロのかぶと焼きを一人で食べつくしてドン引きされて以降、引っ込み思案になってしまい少食になり、その後であった小柄な男性とともに質素な食生活を送りつつ77歳で餅をのどに詰まらせそうになったものの80歳まで元気に生きて人生を終えたとのことです。




