ねえねえちょっと!
大堀かおりはごく普通のおばちゃんである。毎日お節介を焼いて、毎日井戸端会議をする、齢50のおばちゃんである。今日も今日とて、ゴミ捨て場の掃除を終えた後、行きつけのコンビニで食パンと週刊女性雑誌を買って家路についていた―――のだが。
ギキキキイ!!キイイィイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。大堀かおりの魂と、女神が対面している。
「大堀かおりさん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
大堀かおり(50)
レベル26
称号:転生者
保有スキル:ねえねえちょっと!
HP:102
MP:3
「というわけで、いきなり草原に放り出すとかさあ!信じられへんなもう!どーゆーやつじゃ!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がおばちゃんの前に現れた!
「はぁん?!スライムかいな?!武器も何もないのわからんのかい!!どないせえっちゅーんじゃあ!!!」
うろたえる、おばちゃん。
「そういえば!保有スキル!あるとかいってたやんな!!ねえねえちょっと!!!!!」
スライムは、躊躇している!
「なんやねん、このおかしな展開は?ねえねえちょっと!私どないしたらええん?!」
スライムはにげ出した!!!
だだっ広い草原に、おばちゃんがただ一人残された。
「はぁ?なんやねんこれ?!ねえねえちょっと!ねえねえちょっと!!誰か、誰かおれへんの―――」
おばちゃんは魔力枯渇でその場に倒れた。呪文を唱えないおばちゃんは通りかかったオークにバリボリ捕食された。脂ののりきったおばちゃんを完食したオークは、脂肪分の摂り過ぎで次の日にひどく腹を下したという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
おばちゃんは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
おばちゃんはコンビニで食パンと週刊女性雑誌を買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「まあちょい少々早く通りかかっとったらひかれとったやんな?!…おーこわ!きいつけなかんわ、ほんま。」
おばちゃんは、蓄え過ぎた脂肪が幸いして膝を悪くしてしまいましたが、出歩いては散財する癖を押さえられるようになりへそくりがたまり始め、海外留学したいと願う孫にその費用を出してあげることができて満足していたらアメリカ人の嫁を連れて帰ってきたので英会話を学び始めてペラペラになったのちに85歳で人生の幕を下ろしました。
最後の言葉は、「What a life it was.」だったとのことです。




