ワン、ツー、スリー!
瀬尾薫はごく普通のマジシャンである。毎日新作マジックの開発に頭を悩ませ、毎日スプーンを曲げる、齢37のマジシャンである。今日も今日とて、マジックショーでちょっとミスったのを目ざとく観客に見つかってしまってへこんだ後、行きつけのコンビニでハンカチと金魚のえさを買って家路についていた―――のだが。
キイギューウ!!キーイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。瀬尾薫の魂と、女神が対面している。
「瀬尾薫さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
瀬尾薫(37)
レベル44
称号:転生者
保有スキル:ワン、ツー、スリー!
HP:23
MP:102
「というわけで、いきなり草原に放り出されちゃったんだけど!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がマジシャンの前に現れた!
「うわぁ!!スライムでてきてる?!こんなのどう扱っていいのか!!」
うろたえる、マジシャン。
「くっ!保有スキル使ってみよう!!ワン、ツー、スリー!!」
うばほん!!!
マジシャンの手にシルクハットと杖が出てきた!シルクハットからははとがアホみたいに飛び出ているぞ!!スライムはボーゼンとしている!!
「よーし、ワン、ツー、スリー!」
うばほん!!!
マジシャンの手にマントが現れた!マジシャンはマントに包まって…。
「はい、それでは、私、消えちゃいまーす!ワン、ツー、スリー・・・」
うばほん!!!
マジシャンは消えてしまった。スライムはただボーゼンとしていたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
マジシャンは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
マジシャンはコンビニでハンカチと金魚のえさを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたらさすがの私でもイリュージョンは起こせなかったと思うわー、こわー。」
マジシャンは、水中大脱出を得意としていたのですが、まさかの中年太りで水槽からはみ出すようになってしまい、泣く泣くショーの目玉演目とおさらばすることになりかなりへこんだ結果、映像を駆使するマジックをたくさん取り入れるようになったものの、通電トラブルで盛大にネタバレして廃業を余儀なくされてからは年配者向けマジック教室を開いてほどほどに人気を得て70歳でこの世を去ったということです。




