早口言葉
古川洋一ははごく普通の声優である。毎日ええ声を出して、毎日動画サイトに朗読をアップする、齢30の声優である。今日も今日とて、録音を終えた後、行きつけのコンビニでノンシュガーのど飴としゃっきりレタスサンドを買って家路についていた―――のだが。
キキキキイ!!キイイィイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。古川洋一の魂と、女神が対面している。
「古川洋一さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
古川洋一(30)
レベル12
称号:転生者
保有スキル:早口言葉
HP:24
MP:15
「というわけで、いきなり草原に放り出されておりますね、どうしたもんだい、こまったなぁ。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が声優の前に現れた!
「ほう?!スライムですか?!武器も何もないこの状況を!!どう打破すれバインダー!!!」
うろたえる、声優。
「そういえばっ!保有スキル!あったあった!!早口言葉っ!!!!!」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「言わなきゃダメなのかっ!!ええとっ!!隣の客はよく柿食う客だ!」
うばほん!!!
おとなしそうなご婦人が現れて…スライムを捕食している!!しかし、ご婦人は食べているものが柿ではなくスライムだと気が付いてしまったので、消えてしまった!
「赤巻紙 青巻紙 黄巻紙っ!!」
赤、青、黄色の紙が、スライムを包み込む!
「よし!動きは封じ込めた!あとはこいつを始末すればっ!裏庭には二羽にっにわとりがいるっ!」
うばほん!!!
巨大な鶏が二羽、現れて、一匹は声優を、一匹はスライムをつつき始めた。鶏の嘴は、容赦なく声優の体を突き破った。声優は内臓を引きずり出されて絶命した。スライムは嘴攻撃を受け付けなかったが、何回もつつかれて気分が悪かったので、その場から立ち去った。鶏はのちに、原住民に捕獲され、フライドチキンになって食されたらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
声優は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
声優はコンビニでノンシュガーのど飴としゃっきりレタスサンドを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あと少々早く通りかかってたらひかれてたのでは?…恐ろしい話だな、気を付けておかないといけないね。」
声優は、たまたまノリで歌ったカラオケの様子を動画にして流したところ特徴のある歌声にドはまりするファンが鼠算式に増えていき、気が付くと全国ツアーが組まれるほどのアーティストになっていて、いつしか歌うことがメインになったものの役を演じることへの情熱は消えることなく、98歳で生涯を終える三日前までマイクの前に立っていたとのことです。




