readme
入江幸利はごく普通のSEである。毎日もくもくとキーボードを叩き、毎日これは夜食なのか朝ご飯なのか迷う、齢30のSEである。今日も今日とて、ひとしきりモニターに向かって独り言をつぶやいたあとコンビニに行って焼きたらこおにぎりと冷凍唐揚げ五個入りを買って会社に戻ろうとしていた―――のだが。
ギュキギッ!!ギュウキギュ―イイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。入江幸利の魂と、女神が対面している。
「入江幸利さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
入江幸利(30)
レベル24
称号:転生者
保有スキル:readme
HP:12
MP:45
「というわけで、いきなり草原に放り出されて…。うっわー!すごい大自然!何ここ。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がSEの前に現れた!
「わ!!!スライムじゃん!!現実?!」
うろたえる、SE。
「そうだ、保有スキル!!試してみたら何とかなる?readme?」
うばほん!!!
SEの前にパソコンが現れた!モニターにいろいろとファイルが並んでいるぞ!マニュアル、スライム、異世界、武器、勝つためには、Q&A…。SEはまずエクセルを開いた!なぜ!!つぎに勝つためにはのファイルを開いた!アイコンをクリックして、パソコン画面にゲーム画面が出てきたぞ?!なぜreadmeを読まない!!SEは適当にゲームを始めてみたが、よくわからない!じゃあ次はスライムファイルを開いてみるか。これもよくわかんないな、じゃあ武器…。
スライムは無表情でパソコン画面を見つめながら一心不乱にキーボードを叩くSEを後ろからまるのみした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
SEは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
SEは行きつけのコンビニで焼きたらこおにぎりと冷凍唐揚げ五個入りを買って会社に戻る途中、近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あとすこし早く通りかかってたら永久にデスクに戻らないですんでたのかもね…フフフ…。」
SEは、ネットがつながらないので必死に復旧させようと頑張っていたらコードが抜けてたという悲劇に見舞われつつも毎日真面目に仕事をこなし、だんだん夜と昼と朝の区別がつかなくなってはきましたが信じられないようなシステム障害を起こすこともなく穏便に定年まで勤め上げて、晩年は朝寝て夜起きる生活をするようになったのち77歳でこの世を去ったという事です。




