逃げちゃだめだ
白井巴はごく普通の弱虫である。毎日戦う事から逃げ、毎日答えを出すことをあきらめる、齢26の弱虫である。今日も今日とて、スーパーのレジで堂々と横入りされたので隣のレジの一番後ろに並び直した後、行きつけのコンビニで保湿ローションティッシュBOXとブルーベリーガムを買って家路についていた―――のだが。
ギュウッ!ギュギュギュイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。白井巴の魂と、女神が対面している。
「白井巴さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
白井巴(26)
レベル12
称号:転生者
保有スキル:逃げちゃだめだ
HP:10
MP:5
「というわけで、いきなり草原に放り出されてしまいました、なんかすみません、ホント…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が弱虫の前に現れた!
「ひぃっ!スライムが?!に、にげないと!!」
うろたえる、弱虫。
「ほ、保有スキル!これで何とかっ…嘘だ、逃げちゃだめだ?!」
スライムは、今にも襲い掛かろうとしている!
「なんでっ!!逃げないとだめでしょっ!!これっ!!」
弱虫はスキルの意味もまるで考えようともせずただ一目散に逃げだした。そしてスライムに追い付かれて丸のみされた。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
弱虫は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
弱虫はコンビニで保湿ローションティッシュBOXとブルーベリーガムを買って帰路に就いた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「ひぃー!こわいー!」
弱虫は、誰とも敵対せずただ負け続けるだけの人生を歩んでいることに嫌気がさしつつも踏み出す勇気も何かを変える気力もなく、ただ流されるままに生きて、最後は病魔に負けて65歳でこの世を去ったという事です。




