親方
鳥居茂はごく普通の大工である。毎日木を切り、毎日釘を打ち付ける、齢60の大工である。今日も今日とて、棟上の後、行きつけのコンビニで剣先スルメと生酒を買って帰路につこうとしていた―――のだが。
ギュキュ―――ギュキュキキイッ!!ギュ―イイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。鳥居茂の魂と、女神が対面している。
「鳥居茂さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
鳥居茂(60)
レベル55
称号:転生者
保有スキル:親方
HP:70
MP:8
「というわけで、いきなり草原に放り出しやがってこのやろ!ぶっとばすぞ!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が大工の前に現れた!
「おい!!!スライム出やがった!!武器くらい寄越せや!」
うろたえない、大工。
「保有スキルってのはなんなんだ、親方?俺のことか!」
うばほん!!!
大工の仕事道具が全部出てきたぞ!
「釘で戦うか?金づちで叩くか?ノコギリで切るか?どれが正解なんだ!」
全部ヤバそうだ!
大工はノミを投げつけてスライムのからだにぶっ指した!スライムに10のダメージ!ノミは深く突き刺さって毒は飛び散らなかった!大工はタッカーで針を飛ばした!スライムに1のダメージ!大工はずいぶんタッカーで応戦したが、たまが切れてしまった!大工は金づちでスライムに立ち向かい始めた!ああー!スライムに一撃入れたら、毒が飛び散ってやっぱり絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
大工は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
大工は行きつけのコンビニで剣先スルメと生酒を買って店に戻ろうとしていた。店の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「ちょっと早く通ったらおっちんでたやつやんけ!」
大工は、頑固者かつケンカっぱやいのがネックだったものの、その仕事の腕前は天下一品であちらこちらから手伝いの要請が来てなかなか休みがとれないことを愚痴りながらもきっちりこなし、弟子を育て上げ80歳でこの世を去ったということです。




