木のポーズ
小島美晴はごく普通の美女である。毎日ヨガをやって、毎日空の写真を撮る、齢27の美女である。今日も今日とて、ウォーキング帰りに、行きつけのコンビニでプロテインミルクと唐揚げちゃんを買って家路についていた―――のだが。
キイイイイ!!キュイイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。小島美晴の魂と、女神が対面している。
「小島美晴さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
小島美晴(27)
レベル21
称号:転生者
保有スキル:木のポーズ
HP:46
MP:6
「というわけで、いきなり草原に放り出されちゃったよぅ、どうしよう、うむむ…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が美女の前に現れた!
「うへ?!目の前にスライムぅ?!武器も何もないんだけどっ!!どどど、どうしよう!」
うろたえる、美女。
「そうだ、保有スキルを試してみよ!よーし!!木のポーズ!」
美女は片足の足の裏を、軸足のももの付け根にくっつけ、両手の平を合わせて、目を閉じた。
ポーズは安定し、美女は手を合わせたまま、両手を天に向けた。美しいポーズに見とれるスライム。
スライムは、美女と同じポーズを取ろうとしている。しかし、流動体であるスライムはポーズを取ることができない。スライムは、美女に神々しさを感じ始めた。
美女はいつしか木そのものになったので、スライムは美女であった木を讃え自らの身を湖に変えて共にあったが、欲の深い人間が美女だった木を根元から切り倒してしまったため、湖は怒りで毒をまき散らす毒沼へと変化してしまった。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
美女は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
美女はコンビニでプロテインミルクと唐揚げちゃんを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかってたらひかれてたね。危ない危ない、気をつけないと、ね!」
美女は、転職した先の社長に言い寄られてげっそりしてしまいフリーターになりましたが、そこで出会った十歳年下の男の子とできちゃった結婚をして双子を生んだあと、素敵なママさんブログで一位を獲得し密着テレビ番組が大人気となりプライバシーも減ったくれもなくなったけど、なかなかに幸せな人生を送ったとのことです。




