火の用心
大岩千尋はごく普通の消防士である。毎日朝の体操をし、毎日トレーニングを欠かさない、齢32の消防士である。今日も今日とて、中隊の交代をした後コンビニで激辛油そばとパルピスウォーターを買って家路についていた―――のだが。
キュギュイッ!!キュキキキキキイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。大岩千尋の魂と、女神が対面している。
「大岩千尋さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
大岩千尋(32)
レベル25
称号:転生者
保有スキル:火の用心
HP:89
MP:14
「というわけで、いきなり草原に放り出されてしまったのか、さて、どうしたもんかな、うーん…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が消防士の前に現れた!
「おっ?!スライムだ!やはりここは異世界という事か、まずいな。」
うろたえる、消防士。
「保有スキルを試したいところだが…火の用心って、火の欠片すら見当たらないじゃないか。」
うばほん!!!
消防士の背中に、背負うタイプの消火器が現れた!両手には拍子木を握っている!
「ひのーよーじん!」カチ、カチ!
「マッチ一本、火事のもと―!」カチ、カチ!
スライムは水属性だからか、火消しに興味があるらしい!一緒に草原を火災撲滅のために回る事になった!…むっ!遠くに見えるのは…イフリートだ!!めっちゃ燃えてるー!!!
「なんというド派手な燃えっぷり!!枯草だってあるのに!!よし!!消火だ!!!」
消防士は風下に立って消火器の黄色の安全ピンを引き抜き、ホースを外し、ホースの先端を持ってイフリートに向けレバーを強く握って放射しようとした頃には炎に包まれてしまった。スライムは、丁寧な仕事も時には命を奪うことになるんだなと思って、やるせない気持ちになりつつ、黒焦げになった消防士を捕食した。
「う、うーん???あれ??」
消防士は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
消防士は行きつけのコンビニで激辛油そばとパルピスウォーターを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「事故発生、連絡は…したようだな、あとは任せよう。」
消防士は、二交代制のハードな勤務をきっちりこなし市民の皆さんの安全を守っていましたが、救助の際負傷してから筋骨隆々の他隊員に引けを取るようになってしまい毎日勤務の内勤職員へと転身し、多くの消防職員を育成したのち町内会の防火防災担当代表に就任し、80歳でこの世を去るときには名誉永久団長の栄誉をいただいたという事です。




