申し訳ございません
斎藤誉はごく普通の中年である。毎日市役所に行って、毎日苦情を受け付ける、齢35の中年である。今日も今日とて、市役所帰りに、行きつけのコンビニで無糖コーヒーとシェービングフォームを買って家路についていた―――のだが。
キュイイイイ!!キイイイイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。斎藤誉の魂と、女神が対面している。
「斎藤誉さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
斎藤誉(35)
レベル6
称号:転生者
保有スキル:申し訳ございません
HP:62
MP:10
「というわけで、いきなり草原に放り出されたわけですが、どうしようかな、うーん。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が中年の前に現れた!
「うわっ!目の前にスライムですか?!武器も何もないんですけど!!どうしますかね、困ったな…。」
うろたえる、中年。
「そうだ、保有スキルを試してみましょう!よし!!申し訳ございません!」
スライムは、襲い掛かるのをやめた。
「あれ、効いているのでしょうか、うーん、申し訳ございません!!」
スライムは、震え始めた。
「申し訳ございません!!!」
ズゥビッシャァアアアアあ!!!!!
スライムは、いきなり中年にとびかかって捕食してしまった。中年は、遠のく意識の中で、怒り狂う老人に謝り倒していたら逆切れされて殴り掛かられて傷害事件になったことを思い出した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
中年は時間を巻き戻されて、コンビニ入り口前に立っていた。コンビニ前で立ち止まった時に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
中年はコンビニで無糖コーヒーとシェービングフォームを買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかっていたらひかれていました。危ない話です、気をつけないといけませんね!」
中年は、クレーム案件に対する神対応を絶賛されて定年退職したのち、だんだん対人攻撃性が上昇してしまい手が付けられなくなりましたが、言葉を忘れたころから可愛い笑顔を見せるようになり最後はいいおじいちゃんとおもわれて生涯を終えました。




