バックスの酒
葉田博はごく普通のおじさんである。毎日会社に行って、毎日晩酌を嗜む、齢45のおじさんである。今日も今日とて、会社帰りに、行きつけのコンビニでストロングワンの氷結ブドウ味を一本とカニカマをワンパック買って家路についていた―――のだが。
キイイイイイ!!キキイイイイイイイイイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!ぐわしゃぁああ!!ぶちゅ。
真っ白な空間。葉田博の魂と、女神が対面している。
「葉田博さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます。」
「はあ。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
葉田博(45)
レベル3
称号:転生者
保有スキル:バックスの酒
HP:55
MP:55
「というわけで、いきなり草原に放り出されたぞ…。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊がおじさんの前に現れた!
「おお!目の前にスライムが!!武器も何もない!!どうすんだこれ。」
うろたえる、おじさん。
「ああ、保有スキルを試せばいいんだな?よーし!!バックスの酒え!!」
うばほん!!!
でっかいワインが出てきた。
「なんじゃこりゃ、ワイン?!俺ワイン嫌いなんだよ!!チューハイくれよ!!チューハイ!!!」
「なんだとぉおおおおお?!ワインを馬鹿にするとは何事じゃあ!!」
ワインをこよなく愛する酒の神バックスが現れ、おじさんをワイン漬けにしてしまった。
おじさんは凶暴化し、手が付けられなくなった。
「$☆~♭#▲!~※○%$■☆?%◎&@□!」
おじさんは暴走し、地の果てに消えた。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
おじさんは時間を巻き戻されて、コンビニ入り口に立っていた。コンビニに入る前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが、それに気づく様子はない。
おじさんはストロングワンの氷結ブドウ味を一本とカニカマをワンパック買って家路についた。家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかっていたらひかれてたかもしれんなあ、危ない危ない。」
おじさんは、酒の飲み過ぎで肝臓を壊しはしたものの65歳まで楽しく平凡な人生を送ったとのことです。
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