~玄関前の黒ジャージ~
玄関に凭れ掛かるように座って寝ている浮浪者を誰が神だと思えよう。
真っ黒なジャージで身を包み実家の玄関に座り込まれては関わらざるを得ない。そもそも、
好奇心旺盛な彼女は話しかけてしまうに決まっている。
絶望が存在しないのだ。
探し続けていればいつかは大きな絶望を得るだろうと思っていた。
しかし、ない。
なさすぎる。
おかしいだろ。
地上を探し回るもそうそう見当たらず、今季は不作にて俺は死ぬものと思っていた。
しかしこんなに近くにこんなにも大きな絶望が落ちているとは…少しかまをかけてみようか。
「この家には、絶望がやってくる、俺がその絶望を飲んでやろう、願いを言え」
玄関を開き、はてなマークを浮かべる中学生ほどの少女。
「宗教勧誘ならお断りです」
冷静にそう言った彼女に扉を閉められてしまった。
ま、まあ仕方がない、まあ所詮俺であるからな…ん?待てそう言えば、
ー遊びがてら、神聖でもあげてくるかー
そうだった、ジャージ姿のまま着て遊びだったためこの美女の姿になっていたのを忘れていた。というかなんだこのよくわからない組み合わせは、
しかしまともに人間に変異する神聖も帰るための神聖等になくなってしまった…
本当にやばい、ここは規定を破ってでもその辺の百円玉落としたくらいの絶望で我慢し…
だめだ!できないというかそんなもので申請が溜まるものか!近所のおじいちゃんと同じくらいの勝ちにしかならない!
「はー」
家の前で膝を抱えて座り込む。
なんてことだ。調子に乗ってしまった。
神聖を無くせばこの世界で言うところの一般人と変わりないじゃないか。
せめてここは…この家からだけは…
・・・
「うお!?しおり先輩、人、人ですよ」
「あら本当、って君の家の前じゃ」
「ええ…困ったなぁ」
おっと、眠ってしまっていた。15分ほど経ってしまっていたか。何やら騒がしい。
「ん?」
「あ、起きた、ちょっと困りますよこんな所で寝られちゃ」
「って、女の人じゃない、ちょっとこんな格好で」
制服姿の男女が立っていた…ちょっと待てよ
「今!お前この家を自分の家と言ったな!」
男に掴みかかる。そして願う。
「この家から絶望の気を感じる!俺にその絶望をくれ!くれないか!!」
「え!?なんですかいきなり!?」
言われればそうだな。もしかすれば突発的に起こる絶望の類かもしれない。
「あーすまん、俺は絶望の神、チョコだ」
「チョコ?」
・・・
簡単に説明をした俺の鼻は確実にあたるということ、そして絶望を喰らうことで現実を変えることができると言うこと。
するとどんどんと男の目が変わっていった。
「わかった、今度言うよ、だから今は取り敢えず家に帰ってくれないか?」
家?民家のことか、俺がそんなもの持っているわけなかろうに、
「ないが?」
「帰る家?」
「ないが?」
ウッソだろと彼が述べるとその先輩にあたる女がじゃあ今日はうちで預かると女の家まで連れて行かれてしまった。
シオリと呼ばれた女から女の話をちょくちょくと聞かされた。
俺も気になって少し質問したりなどして、その日は少し楽しかった。
そして次の日になり朝早くに男たちの家へ向かうと男が待っていた。
「なぜ昨日ではダメだったのか」
と男に問う、男の手首や顔には少し傷がついていた。
「先輩がいたから、あと妹もまだ起きてたし、まだ寝てるから今のうちに聞いてくれ」
その男から聞いた話はこうだった。
家にて虐待に遭っていると、男は誰にも言えず隠してきたと言っていた。
「ならばどうする?」
「できるなら、父を、消してほしいが…」
男はまだ俺の力を疑っていた。
「できるぞ、今すぐにでも、」
だが男はそこで起こる不具合についてを思い出したように聞いてくる。
そう、もちろんその父の存在を消せばその息子娘は生まれてこなかったことになる。
そのように現実が変わってしまうのだ。
「…妹は養子だ、母に拾われてきた子、だから僕が消えるだけですむ…わかったその条件で行こう」
俺はその時、この一軒家の二階の窓から何やら誰かが覗いていることに気がついていた。
そしてこの絶望を食うたあとにまだこの家から絶望が吹き出るということがわかった。
変えてしまっては人の思いである絶望が残るかがわからない…
「ならば、俺は明日ここで儀式をする、それまで待て、いいか?待てよ?」
男の目は今にも父親を殺そうとするそのような目だった。念を押しておかねばやりかねない。
・・・
その昼だろうか、先に玄関前を通ったのは男の妹である女だった。
「おい、お前今朝の話聞いていたろ」
玄関を開こうとする女に声をかけた。
きっと続く絶望はこの女からだ。
俺の勘は当たるんだ。
「…聞いてたよ」
女は玄関に手を掛けるのをやめ、こちらを振り返って言ってくる。
「お兄ちゃんとお父さんいなくしちゃうんだってね、」
女は悲しそうな表情をしていた。
「なんだいやなのか?」
自らにも大量の傷がついていると言うのに、何を言っているのかと思った。
「お父さんはいいよ…でもお兄ちゃんがいなくなるのは嫌だ…どうにかできない?」
ああ、そう言うことだったか、やっと理解したこれは思ってもないチャンス。
二倍の絶望稼ぐチャンスだ。二回の儀式などぞうさもない。
「よい、できるとも、俺に任せろ、兄を残せばよいのだな…ならばすぐに」
指を鳴らした。それで全てが変わった。
絶望が体に染み込んでくる。
可能性のままでその可能性を喰らうことができた。うまい、やはり起こる前の絶望がうまい、絶望とは人の感情、消費物。形を成す前に俺が食らえばウィンウィンだ。
「え?終わり?」
「ああ、助かった、あとは兄だな、もう良いあと1日耐えるだけだ」
女はその言葉を聞くと安心して家に入っていった。
・・・
一日が立つ。
男の言われた通りに父親のみの存在を消す。そして先程と比べものにならないほど大きな絶望を喰らう。
こんな絶望、起こる前に食えるとは思わなかった。父親が暴走し一家を虐殺など、思っても見ない狂気だ。
さてと帰ろうとした時だった。
女が出てきた。あの妹だった。
「なんだ?」
絶望の匂いは感じない。
「ねえ、どうやってお兄ちゃんを残したの?」
ああ、儀式の時も彼は自分の死を覚悟していたな。
「簡単だ、父親との血縁を切った、腹違いということにしてその父親を死んだことにした何貴様の頭にも入ってくるであろう」
こういう時、なんでもできる神という存在は役に立つ。
「そして言ってなかったが俺がいた事はお前たちの記憶より消える」
変えられない現実の絶望が現れるまでの応急処置。こうやって多くの人間を助けなくてはいけない。
「ありがとう」
女は自分の持っていたペンダントを俺に渡した。俺は男だというのに、
「なんだこれ以上は余計だ、それに俺が感謝すべきだろうに…そうだ」
彼女の手に六角形の紋章を刻む、そしてさらに適当な胸の位置にワラシベを埋め込ませてもらった。
これくらいしてやっと俺は神に返り咲ける。
「ではな…」
そして俺は女の前より姿を消した。
こんなに心の綺麗な人間と出会ったのは、これで二度目だったな。
「じゃあ、雑務に戻るか」
VerGo:Four.Desp
この神によりまた世界が一つ都合よく書き換えられてしまったのだ。
こんなちっぽけな本当隠すために、絶望を食らうためだけに。




