~公園ベンチのノッポ侍~
それを神だと誰がわかろう。
抹茶で淡い色の和服を着こんだ背の高い男にしか見えないのだ。
好奇心旺盛な彼女は話しかけてしまうに決まっている。
最初期、我はただ神でいるため人を眺めていた。
公園という遊具というものを眺めていた。
まだその時我はまだ目があったのだ。
だから我を不思議そうに眺める少女にももちろん気がついた。
花を握りしめ、兄妹だろうか時折兄にアレは何かと我を指差す。
探しても彼はもう消えてしまったのだとわかっているここにいるはずだと来たが遅かった。
その後悔を胸に秘めたまま我はこの横に広いベンチという椅子に座っていた。
「おじちゃん、おっきいのね」
肘を太腿につけてかなり前屈みになって頬杖をついているとその少女が顔の目線にくる。
彼女は我の身長を横から目減りで測り実はかなり身長が大きいのではないかと思ったのだろう。
「ああ」
まったく持ってその通りだ。
メートルもない餓鬼からすれば3倍ほどの身長はあるだろうか。お陰で上から見下ろして探す事はとても簡単だ。
「声も低いのね!」
好奇心旺盛な少女だ。だが距離をわかっているのか我の手の届かない範囲ギリギリまで必ず離れてから話しかけてくる。
「ああ」
兄といえば友達とに遊びに集中しすぎているのかこちらにいる少女の心配もできないようだ。
どこか彼奴の妻に似ている気もする。
「少女よ」
返事をしないで彼女はこちらを向き首を傾げる。
「我を笑わせてみせよ、さすれば褒美をやろう」
彼女の目が変わる。
目が先ほどまでより澄んだ目になり頬が上がる。そして首を大きく縦に振った。
「わかった!!!」
そういうと彼女は我の前から消えた。
まさかわかったとまで言って何もせずにまずいなくなるとは思わなかった。
その時点で我はもう笑いそうであった。
すると暫くして彼女がまた現れる。
「あげちゃう!」
彼女が取り出したものは雑な花飾りだった。
よくよく見れば遊んでいる彼ら全員の頭に同じようなものが載っているではないか。
まさか我の分も作っていてくれていたのか、その時間が欲しかったと、
「ありがとう」
受け取った花飾りを被ろうとすると少しほつれる。
「あー気をつけて!!」
「すまないな」
我は長い腕を使ってほつれを直し、さらにもう2種類ほど花を増やして作り替える。
そして同じものを複製して見せる。
「わー!」
つい、その笑顔に釣られて笑ってしまった。
「褒美だ」
花飾りの複製を渡す。
「ありがとう!!」
彼女が仲間のもとに戻ろうと駆け出そうとしたとき、我は彼女の腕を掴んでいた。
「はぇ?」
振り返った少女の半袖の腕に長い指を伸ばす。
「眩しいぞ、目を瞑っていろ」
彼女は首を縦にゆっくり振ると目を瞑った。
私は彼女の腕の上から五角形を描く。
「貴様は我に良き供物をよこした、これはその褒美と人々の笑顔のための希望だ」
五角形は文字のまま彼女の腕に浮かぶと、
吸い込まれていった。
そして腕を離し、軽く頭を指で弾く。
「あれ?あ!」
彼女は自分の握っている綺麗な花飾りを持ち、仲間のもとへ走っていく。
「さて、我は目的を果たさねば」
VerGo:Four.Fate
結局その神が現れたのは上でも下でもこれ一度きりであった。
彼は目的のために堕ちていった。