52 ドンガとギムリ
(シズク)
オリンピアからホテルクラウンのスイートルームに、ドンガとテレポートして来ました。
「これだけは言っておきたいんじゃが、ワシはこの街の連中とは、今はもう付き合いがないからのう。」
「そうなんですね。貴方がこの街にいたのは、それほど前と言うことですか。」
「そうじゃな。アグニは最愛の家族と別れた悲しい場所じゃよ。じゃが、今はワシの子孫が鍛冶組合の会長をやっているはずじゃ。」
天界に住む私達からすれば、大した時間ではないのですが、人族にしてみると遠い昔なのでしょう。
「それでは鍛冶組合に行きましょうか。」
「うむ。」
ドンガの案内で鍛冶組合の建物の前へ来ました。そのまま中に入り、ドンガが受付のドワーフの女性に何やら話をすると、私達は奥の部屋へ通されます。
受付の女性がドアに会長室と書かれた部屋をノックすると、中から「入れ」と声が聞こえる。許可が出ると受付の女性が扉を開けてくれて、ドンガを先頭に中へ入ります。
部屋の中では、ひげ面のおじさんドワーフが、高そうなソファーに座って待っていました。
「おれが、鍛冶組合の会長をしているギムリと言うものだ。詰まらん用なら帰ってくれ。今は忙しいんだ。」
ドンガは、おそらくは自分の子孫であると思われるギムリという男をじっと見つめてから、話しかけます。
「ギムリと言うたか。先ずはこれを読むんじゃ。」
そう言ってドンガは懐から1枚の紙を出して、ギムリに渡します。
その紙を読むとギムリの顔が変わり、
「ま、間違いない。貴方は私のご先祖様ですな。ドンガ様。」
あの紙に何が書かれていたのか解りませんが、一族だけに解る何かが、書かれていたのでしょう。
「様はやめてくれい。ドンガと呼べばええ。ワシには敬語も必要ない。」
「解ったよ。ドンガじいさん。それにしても死んだじいちゃんから話は聞いていたんだが、まさか本当だったとはな。」
「どんな風に聞いとったんじゃ。」
結構話が弾んでいるので、私は黙っている事にします。
「死んだじいちゃんが、俺のじいさんがハイドワーフに進化した、って言っていたんだ。しかもこの事は誰にも喋るなとも言っていた。他の者にそんな話をしても、信じる奴はいないから、おれは結局誰にも話してないけどな。」
一応、そのおじいさんは、口止めをしていたんですね。
「それでハイドワーフのじいさんが、どうして急にここへ来たんだい?」
「うむ、ワシの恩人がガラスの原料を欲しておるのと、もう1つは船を作りたいと言うての。ドワーフなら、どちらも可能だと思うて来たんじゃよ。」
それを聞くと少し難しい顔をする。
「少し言いずらいんだが、実は今、鉱山が少し不味いことになっていて、採掘出来てないんだ。」
「どういう事か詳しく教えてくれんかのう。」
ギムリは私の事をギロリと睨む。
「そっちの嬢ちゃんには聞かせられん。」
「この嬢ちゃんは良いんじゃよ。恩人の1人なんじゃから。」
ギムリが少し驚いていますね。
「ドンガじいさんのメイドかと思っていたよ。」
「紹介が遅れましたが、私はシズクと言う者です。よろしくお願いします。」
「さっき聞いたかもしれんが、おれはドンガじいさんの玄孫でギムリと言う。鍛冶組合の会長だな。」
お互い紹介も終わり、
「まあ、何をおいてもギムリよ、これを飲んで見よ。全てはそこからじゃな。」
ドンガはそう言って魔法袋からドンベイ清酒を取り出します。
そして、コップに注いでギムリに渡します。
「なんだこの酒は、今までに飲んだ事の無い味だ。何で出来ているかも解らん。」
「うむ。そうじゃろ、そうじゃろ。この酒はワシらがオリンピアの街でお米から作っとるんじゃよ。」
ドンガもコップに注いで、ちゃっかり飲んでますね。
「お米って東方の方で食べられている食材だっけか。」
「そう、それじゃな。」
それからドンガは、ドンベイビールとドンベイワインも魔法袋から取り出して、それぞれコップに注いでギムリの前に置きました。
ギムリも意図が解り、黙ってその2つを交互に飲んでます。
「このエールもこのワインも、今までに飲んで来たものとは全然違う。一体どうなってんだ。」
「まあ、そのくらいにしておいてじゃな、ギムリよこの酒をもっと飲みたくはないか?」
ギムリの顔があからさまに変わりましたね。
「も、もちろん。ドンガじいさん、おれは何をすれば良いんだ?」
「そこで先ほど言った、ガラスの原料と造船してくれる人をギムリに探して欲しいんじゃよ。出来れば造船の方は、オリンピアに定住してもらえるドワーフがええんじゃがのう。」
ギムリはむむむと、うなって、
「オリンピアと言う場所に移住しても良いっていう職人を俺の方で募集してやる。この酒が飲めると解ればそれなりに集まるだろうよ。」
そしてドンガは沢山のドンベイ酒を取り出して、ギムリに渡しています。これは賄賂ですね。
「もちろん家族全員でもいい、と伝えてくれい。移住者には絶対後悔はさせないとも言うんじゃぞ。」
「ああ、任せといてくれ。」
「ワシらはこの酒で、そちらは鉱山で採れる原料とで、交易したいんじゃよ。」
「それはこちらとしても大歓迎何だが、さっきも少し話したが、実はプルナ山が今にも噴火しそうなんだ。」
それは穏やかではありませんね。
「それで鉱山組合の報告によると、坑道が熱くなって入ることが出来ないし、おまけに奥の方にはフレイムゴーレムが暴れているらしい。」
私が何とかするとしますか。
「では、先ずは坑道の調査をしますか。噴火の方は、私に少し考えがあるのでそれを試してみますね。」
ギムリが、何を言ってるんだみたいな顔をして私を見てますね。
「それでは全部片付いて落ち着いたら、ドンベイ酒との交易をお願いしますね。」
話をどんどん進めて行き、私は一応、交易の念を押しておきます。
「勿論だ。細かい話は全部終わってからにしよう。」
「まあ、そっちにも美味しい話じゃろ。」
「ああ、間違いなくこの酒はみんな欲しがる。」
ドンガの言った通りになりそうですね。ドンベイ酒があれば、すべて上手くいきそうです。
「それでは明日、鉱山組合に行きますか?」
姫様に報告したいので、鉱山組合に行くのは明日にさせてもらいます。
「おう、解った。じゃあ明日の朝、ドンガじいさんと一緒にここへ来てくれ。」
「解りました。」
ドンガはギムリと、もう少し話をしたいからと残るそうです。
「では、話が終わったら、ホテルクラウンに戻って来てください。私はこれで失礼しますね。」
ドンガと別れて、私は1人でホテルクラウンに戻ってきました。




