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8 とんとん拍子とはいかない



 地下は、小さな部屋になっています。石造りの部屋は寒々しいですが、床にはカーペットが敷かれ、中央に置いてある机といす、囲むように並ぶ本棚が温かみを感じます。


 懐かしい。なぜか、この光景に見覚えがあり、私は首をかしげます。


「君は、ヘレーナ。王子の婚約者で、公爵家の令嬢・・・そして、僕とは初対面ということでいいかな?」

「はい。」

 伯父様は、私に椅子に座るよう促して、自身は本棚の前に立ちます。どうやら、禁書はその本棚にあるようで、上から順に目で本を一冊ずつ確認しています。


「君は、何の使い手だい?」

「・・・私は、どの魔法も得意ではありません。一通り、初歩の魔法は覚えましたが、それだけです。」

「・・・一通り勉強したのかい?それは、普通なら悪手だね。」

「私には、その道しかなかったのです。」

 そう、多数の魔法を覚えることは、良くないことだと教えられました。それは、人が覚えられる魔法の数には限りがあるからです。


 数というより容量と言った例えが正しいでしょう。人によってその容量は違いますが、すべての魔法の使い手になれるほどの容量は、人では持ちえないとされています。

 貴族では、1つの魔法の使い手になれれば十分で、天才と呼ばれた人でも3つの使い手までしかなれません。

 魔法一つの容量は、その人と魔法の相性で多くも少なくもなります。相性がいいほど少なく、より多くの魔法を覚えることができ、逆に相性が悪いと多くの容量を使ってしまい、覚えることができる魔法が少なくなってしまいます。


 なので、通常は相性の良い魔法だけを、覚えれるだけ覚えます。相性の良くない、非効率な魔法の初歩が使えるようになるより、効率的な相性の良い魔法の中級を2つ覚えたほうがいいに決まっていますから。


 ちなみにこの相性は、初歩の魔法を覚えるときにわかります。初歩の魔法を教えられたときに、難なく魔法を発動させることができれば、相性がいいと判断できます。

 相性が悪い魔法は、覚えるのも一苦労なので。本当に大変でしたよ?


 私には、相性のいい魔法がありませんでした。なので、すべて覚えることにしたのです。初歩は、何とか覚えることができましたが、もう少し高度なものになってくると、一つ覚えるのに1年以上かかるか、容量が足りなくて覚えることができないかのどちらかでしょうね。

 現在は、光の魔法の勉強をしています。初心者レベルですが、治癒の魔法は魅力的ですね。かすり傷程度でも痛いものは痛いので、その程度しか治せない魔法でも覚えたいものです。


「ティナは、何を考えているのか・・・」

 伯父様が不思議そうに呟きます。ティナとは、母のことでしょう。

 そして、伯父様は目的の本を見つけたらしく、その本を手に取ってこちらに表紙を向けてくださいました。


「これが、禁書だよ。「生命の幻覚書」名前の通りの魔法が発動する。」

「名前の通りですか・・・もう少し詳しくお聞きしても?」

「もちろん。これはね、命があるように見せる魔法だ。たとえば、君が座っている椅子、目の前にある机、この本が並んでいた本棚、この本自身・・・何でもいいけど、生きていないものを、生きていると錯覚させるんだ。」

「それは、とても難しいことだと思いますが・・・そうする意味がありますか?」

 命のない物が、命があるように見せる。それはとても高度な魔法だと思われますが、そうすることに何の意味があるのかわかりません。

 魔法は、人の役に立つものであることが大前提。

 敵を倒すため、傷を癒すため、生活に役立てるため、魔法は使われ覚えられます。それは、禁書と呼ばれるものも同じなのです。


 死んだ人と話をしたい、生き返らせたい。


 多くを従わせたい。すべてに認められたい。


 勝ちたい。手に入れたい。


 度を越した欲望を叶えるために生まれたのが禁書。誰もが一度は願うこと、それを実現させてしまうその書は、周りへの被害が大きく封じられることになりました。

 そして、禁書のたちが悪いところは、その書を持っていれば、魔力だけで魔法を発動させることができるというところです。


 話がそれましたが・・・生きていないものを生きていると錯覚させる魔法に、需要があるとは思えません。


「普段はないね。ここで使ったとしても、ちょっとこの部屋人の気配がするなぁ、で終わる魔法だからね。一見この書には使い道がないような気がするだろう?でも、ならなぜ君はこの禁書を求めて来たのかな?」

「それは・・・」

 我が国を襲った現象は、おそらく七禁書「喰らいの書」によるもの。そして、それに対抗する書が、この「生命の幻覚書」と聞いたからです。


「君の国のことは、聞いているよ。それで、君はこの書を求めてここまで来た・・・ということでいいかな?」

「ここまで伝わっているのですね。はい、私は我が国を救うために、その書を求めてきました。本当に、その書で我が国を救えるというのなら、伯父様どうか・・・」

 私は立ち上がって、伯父様に深々と頭を下げます。


「どうか、その書をお譲りいただけませんか。どうか、お願いいたします!」

「いや、それはできないよ。禁書だし。」

 すっぱり断られました。そうですよね。流石に無理な話だということは、分かっていました。


 国の危機なので、貸してくださる。そんな甘い話ではありません。私が国の使者ならば、可能性はありましたが、私は残念ながら公爵家という高位の貴族ではありますが、ただのその令嬢です。


 未来の王妃などともてはやされていますが、それはただの仮定の未来。今の私は、ただの王子の婚約者、何の権力もない公爵家の令嬢です。


 しかし、それでも私は、我が国を救います。


 だって、私は王子・・・ハインリヒ様を諦められません。そして、大好きなお母様、アン、ディーがいる我が国を守りたいのです。




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