7 伯父
国を出て3日が経ちました。王都に到着です。
白い息が出るほどに寒い中、王都内は人の熱気で少しだけ暖かく感じましたが、寒いものは寒いです。元がとっても寒いので、それが熱気で寒いに変わっただけです。
身震いする私に、アンが寄り添ってくれました。ディーは、さりげなく風上に立って、風をさえぎってくれます。
「それにしても、遅いですね。」
「仕方ないよ、アポなし訪問だったし。」
私たちは、大きなお屋敷の前に立っています。ここは、私の伯父が継いだ伯爵家のお屋敷で、伯父が王都に滞在する際はここを使用しているそうです。ちょうど伯父は王都に滞在していると聞き、そのまま訪問しました。
ちなみに、伯父の滞在情報はアンがさっと調べてくださいました。本当に有能ですね。
「門前払いされないだけ、ましですよね。」
「初対面でアポなしとか、失礼以外の何者でもないからね。あ、どうやらお出ましだよ。」
お屋敷から、2人の男性がこちらに向かって歩いてきています。一人はどう見ても執事で、貫禄の漂う白い髪を後ろになでつけた、冷たいまなざしをした方です。
そして、もう一人の男性は、見覚えのある銀の髪をしています。執事とは違った、白ではなく、銀といえる髪は私が受け継いだ母の色と同じです。
お母様と同じなのは色だけでなく、年齢を感じさせない容姿もそっくりです。美女美男子の兄弟だったのですね。
温厚そうな伯父は、私たちに笑顔を向けました。
「伯父様・・・」
「こんにちは。レナ・・・いつ見ても、君は美しいね。」
「え?」
いつ見ても?どういうことでしょうか、私は伯父様と初対面ですが?
まさか、お母様と勘違いを・・・いいえ、さすがにそれはないでしょう。お母様は年齢より若く見えますが、それは子供っぽいという意味ではありません。私と間違えるということはないはずです。
「・・・?まぁ、話は中で・・・おや?そちらは、お友達かい?」
「初めまして、ベネディクトと申します。」
「ベネディクト・・・あぁ!君が、ディーか!では、ベネディクト嬢ということだね。聞いていた通り、凛々しく芯のありそうなお嬢さんだ。いつも僕の姪がお世話になっているね。まぁ、ここは寒いから中へ入って。」
伯父様は、笑みを深めて私たちをお屋敷へと招いてくださいます。やはりお母様と勘違いしたわけではないようです。初めてお会いしたはずなのに、なぜか親し気で少し不思議ですが、とりあえず伯父の提案に乗って、お屋敷へお邪魔することになりました。
案内された応接室で、私とディーは並んで、伯父様と向かい合って座ります。
「ここまでご苦労様。それにしても、君が友達を連れて来るなんて初めてだね。今回はちょっと違うのかな?」
いいえ、会うのも初めてですよ、伯父様。
「・・・あの、伯父様、少しよろしいでしょうか?」
「いいけど、なんでそんなに改まっているんだい?本当にどうしたの?」
「えーと、私は伯父様と初めてお会いすると思うのですけど、先ほどからお会いしたことがあるみたいにおっしゃっていますよね?その、どういうことですか?」
「・・・初めて会う?」
「はい。」
にこやかな笑みを浮かべていた伯父様ですが、私の言葉を聞いて真剣なまなざしを私へと向けます。それを見た、ディーとアンが緊張したのを感じ取りました。
「真の姿を、我が目に・・・コンガン。」
伯父様が何かしらの魔法を発動させました。それを見て、2人が私をかばうような動きを見せ、非難の声をあげます。
「伯爵!」
「・・・害のある魔法ではないから安心して。」
「そうだとしても、一言おっしゃってください。」
「悪かったね、配慮が足りなかったようだ。」
伯父様が謝ったことで、ディーは元のように私の隣へと腰を下ろします。ただ、その目は厳しく伯父様に向けられていました。
しかし、それにかまうことなく、伯父様は私を見つめます。そして、納得したようなそぶりを見せて、苦笑しました。
「ずいぶん面白いことになっているようだね、レナ。片割れはどこへいったの?」
「片割れですか?」
意味が分かりません。片割れということは、対になる何かを私が持っているということでしょうか?ですが、そんなものに心当たりはありません。
対といえば、禁書ですね。それくらいしか思いつきません。
「喰らいの書の話ですか?」
「・・・わからないか。まぁ、その状態なら仕方ないね。それで、喰らいの書がどうかした?君の国にある禁書だよね。」
違ったようですが、話したいのは禁書のことです。このまま聞いてしまいましょう。
「この国に、その喰らいの書に対抗する禁書があると聞きました。」
「あぁ、うちにあるよ。」
「本当ですか!」
「うん。興味があるなら見せてあげるよ。」
伯父様は立ち上がって、私たちを禁書の保管場所へと案内してくださいました。
これで問題は解決ですね。それはうれしいことですが、少し不用心ではありませんか、伯父様?コレクションを見せるのとはわけが違います。禁書ですよ?安易に人に見せるべきではないと思います。
お言葉には甘えさせてもらいますけど。
伯父様が案内してくださったのは、地下への階段。禁書は地下にあるということなので、ここを降りなければならないようです。
「ここからは、レナ以外はご遠慮願おうかな。」
「そんな!」
ここからは、ディーとアンは立ち入れないようです。流石に、禁書を部外者に見せるのはためらわれたのでしょう。私は身内なので、ぎりぎり許されているということですか。
「・・・はい。」
「レナ!?待ってくれ。一人で行くなんて反対だ!」
「僕もいるけど?」
「だから、なおさら反対なんです!」
「ひどいなー。」
ディーの失礼な物言いを、面白そうに聞き流す伯父は、何を考えているのかはわかりません。こういう人が、一番怖いのですよね。しかし、禁書は確認しておきたいのです。
「大丈夫よ、ディー。伯父様、エスコートよろしくお願いします。」
「もちろんだよ、レディ。では、お嬢さんたちは、部屋を用意したからそちらでお茶でも楽しんでいてもらえるかな?」
伯父は視線で、私たちの後ろに立っている執事に、2人を部屋に案内するよう指示を出します。
「・・・レナ。」
「ディー、行ってくるわね。」
「わかった。伯爵、レナのことをよろしくお願いいたします。」
「もちろんだよ。可愛い姪だもの。レナ、足元に気を付けてね。行く先を灯せ、ライト。」
伯父が魔法を発動させます。光の初歩魔法で、あたりを照らす光を出現させる魔法です。
真っ暗だった階段の先が、うっすら見えるようになりました。
石造りの階段の先は、木製の頑丈そうな扉があります。あの先に禁書があるのでしょう。
伯父が腕を貸してくださいました。私は、その腕に手を添えて、一段一段階段を下りていきます。ディーとアンの視線を感じます。心配していただけるのは、うれしいですね。
階段を下りきると、伯父は扉の鍵を開けて、扉を開いて私に中に入るよう促します。
私が中に入ると、伯父も続いて入り、扉が閉まりました。
2人の視線は、もう感じません。
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