30 最後はお母様と私で
何度も死に、何度も時を戻りました。
お母様と共に幸せに過ごし、お母様が先に行ってしまわれたら・・・逝くではありません。過去に行っているだけですからね。
お母様がいない間、私は父を貶めるために動きます。ほとんどが、私が問題を起こすことで、父の立場を悪くするものでしたが、時にはその命を奪うこともありました。
しかし、命を奪うというものは、復讐という枠組みでは最も稚拙な行為でしょう。復讐とは、相手を自分が受けた苦しみの分苦しませること。死は、救いでしかありません。
私は、父を憎んでいます。ですが、お母様は父を愛していました。
いつか、その愛が届くのではないか?叶うのではないかと思い、私はお母様が殺されるまでに父に猶予を何度も与えました。ですが、それは無駄でしかありませんでした。
最後の最後、お母様は最後まで暗殺されました。
その時も、いつものように復讐のため、王子にその身を焼かれました。
禁書を使ったという罪を犯した私、その父はその後、平民に落とされたのでしょうか?それとも、一生暗い牢屋に?処刑・・・の可能性もありますね。でも、別にいいのです。
次の時に、もっと苦しめればいいのですから。
いつものように、私は過去へと戻りました。
王子と婚約する3年前です。一気に縮んだ背に違和感がありますが、すぐ慣れるでしょう。それよりも、お母様に早く会いたいです。
私は自分の部屋のソファの上で、居眠りをしていました。
立ち上がって部屋を出ると、まっすぐに、お母様がいるであろう部屋へと向かいます。すると、廊下の向こうからお母様がこちらに向かって歩いてくるのが見えました。
「お母様!」
私は、お母様に駆け寄って、その細い腰に飛びつきます。
「会いたかったです!また、たくさんお話ししましょう!」
「・・・」
「お母様?」
全く動く気配のないお母様を不思議に思って、顔をあげました。すると、お母様はうつろな瞳で遠くを見つめていました。
「・・・え?」
思わず、お母様から離れます。すると、お母様は私をよけて歩き始めました。
「・・・お母様。」
「・・・」
お母様は振り返らずに廊下を進み、やがて角を曲がって見えなくなってしまいました。
「本当に、お母様・・・なの?」
私は、お母様を追うこともできずに、ただ立ち尽くすしかありませんでした。答えは出ています。お母様は、逝ってしまったのだと。ですが、それを確認することが怖くてできませんでした。
夜。
ベッドの上で悩んだ私は、ばっと起き上がって、部屋を抜け出しました。向かった先は、言うまでもなく、お母様の部屋です。
お母様の部屋に着くと、そのまま静かに扉を開けて中に入りました。もちろん、お母様はベッドの上で眠っています。小さな寝息だけが聞こえます。
「・・・お母様。」
「・・・」
ベッドの隅に座って、私はお母様を見下ろしました。
ただ、眠っているようにしか思えないお母様。実際は、誰が見ても眠っていると判断するでしょう。眠っているのですから。
「禁術・・・支配。把握。」
禁術を発動します。この禁術は、簡単に言えば魂を扱う術で、魂の状態を見ることができ、それを取り出すこと、形状を変化させることもできます。
今は、魂を見ることにしました。
「・・・お母様では、ない?いいえ・・・これは、お母様の一部?」
魂の状態はひどいものでした。大きさは10分の一程度になり、ろくな思考もできないように見えます。ただ、命令が与えられているようで、それを実行するだけの存在となっていました。
「・・・これって。」
命令の詳細を探っていると、普段の生活を送っていると見せかける命令ばかりでしたが、1つ異色の物があります。
「お母様、お聞かせください。最後の言葉を。」
これは、合い言葉です。この言葉を聞くと、お母様はお母様の魂が残した言葉を話すよう命令されています。
「・・・ごめんなさい、レナ。・・・どうか、幸せになって。」
「・・・」
「・・・」
お母様は、それだけ話すと、再び眠ってしまわれました。
「それだけ・・・ですか?」
「・・・」
「・・・幸せって、何を言っているのですか、お母様!」
私は、お母様に馬乗りになって、襟首をつかみました。それでも、お母様は目をつぶったまま眠っています。この時間は寝るという、命令のせいでしょう。
「私は、幸せでした。お母様と一緒に生きていられるひと時が・・・幸せでした。楽しみなんです。なんで、奪ったのですか!なんで、私の幸せを奪ったのですか!」
わかっています。わかっているのです。私にとって幸せなだけだったのだと。お母様にとって、私と過ごす日々は・・・
「義務でしたのね。」
私は、それから10分ほどお母様を見下ろしていました。
これから何をするべきか、決めかねていたのです。私の人生は、お母様がいるときに幸せに暮らし、殺された後には復讐するというものでした。でも、お母様がいない今は、幸せになれないのです。
「なら・・・復讐するしかありませんね。」
幸せに暮らせないのなら、復讐をするしかありません。そして、私はこれを最後にしようと決めました。
「お母様のいない人生に、何の意味があるのでしょう?」
意味のない人生を終わらせましょう。しかし、その前に最高の復讐を果たすのです。
「私ではできなかった復讐を・・・禁術、支配。分裂。」
自分自身に禁術を掛けます。それは、魂を2つに分ける禁術。
「力は、お母様に・・・」
2つに分けた魂の大部分をお母様の体へ移します。もちろん、禁術もこちらの方へ移動させました。もとから、お母様の体は禁血なので、禁術を宿すのに問題はありません。
「残りは、私へ戻して・・・くっ!?」
魂を分けた影響でしょうか?禁術が暴走を始めました。勝手に発動した禁術は、もっとも私がよく使っていた禁術です。
「嘘!待って!」
私の体に入れるはずだった魂が、目の前から消えました。これは、移動したのでしょう。
私の扱う禁術は、魂に関してなら、どのようなことでも可能にするという、神術。文字通り、魂を「支配」するこの禁術は、魂をどうとでもできるのです。
過去や未来に魂を送ることなど、造作もありません。
消えた魂は、何処かへ移動したのでしょう。何の力もない魂、もう戻ってくることは不可能・・・
「仕方がありません。この体だけで復讐を・・・!」
私をあざ笑うように、再び禁術が発動します。そして、それは記憶を操作するというもの。
「さすがにそれは!くっ!」
そこで、私の意識は途切れました。
次に目を覚ました私は、自分のことをお母様だと認識し、命令に従うだけの人形になっていました。
それから、娘の婚約を機に、一部記憶を取り戻し、それを未来視と勘違いしたのです。
娘の幸せのために、私は悪役を演じることにしました。娘より悪に、娘との縁を絶ち、最後は娘を正義にするために、私は悪となり死を望み、叶えられたのです。
何はともあれ、復讐は果たしました。これで、私は安らかに眠れるというものです。簡単には眠らせてもらえないようですが。
「やっと見つけた。」
そう、もうこの人生から退場するというのに、誰かが私を引き留めるのです。
私の魂を捕まえたのは、銀の髪に青い瞳という、私やお母様と同じ色彩をした男でした。
「お兄様。」
「ふっ、伯父様だよ、レナ。やっぱり、片割れはティナの中にいたか。」
「・・・片割れ?」
「あれ、レナの体に入っている魂を見ていないのかい?とっても複雑な形をしていてね、2人の人間が合わさって、一人の人間になった・・・補い合って、半人前が一人前になったという感じの魂だよ。」
そうでしたか。消えたほうの魂は、無事に戻ってくることができたのですね。
それにしても、我ながら趣味が悪いですね。あんなクソ男・・・王子を選ぶだなんて。本当に、趣味が悪いわ、私・・・お母様ではない、私に戻った今、苦笑するしかありません。
思い浮かんだのは、王子が睨みつける顔ばかり。もちろん、それは私に向けられるもの。私だけに向けられる強い感情・・・
「馬鹿ね。」




